実際にはないものをあたかも存在するかのように感じさせる技術『VR』。カタカナで『バーチャルリアリティー』と呼称していた時代は3DのCGとサラウンド音響を組み合わせた程度の牧歌的なものだったように思う。技術は格段に進歩し、VRはまさに『仮想現実』の名にふさわしいものとなっている。そして防災の世界にも貪欲にこれを取り込む試みが行われている。”防災の鬼”渡辺実氏がVRと防災の最先端をリポートする。

最新の防災技術を語るキャドセンター空間情報デザインチームの河原大氏(右)と同社プロデュースグループ営業2部の古川修氏
最新の防災技術を語るキャドセンター空間情報デザインチームの河原大氏(右)と同社プロデュースグループ営業2部の古川修氏

 まず訪問したのは東京大学の生産技術研究所などとのコラボで災害の「見える化」に取り組むキャドセンターだ。

 同社のショールームに案内された“防災の鬼”渡辺実氏がひとこと。

「こちらの会社は防災関連の展示会などに積極的に参加して、業界ではかなり知られた存在です。防災地図や被害想定などの情報も紙の文化から映像の文化にどんどんシフトしてきています。おかげで災害の疑似体験もかなりリアルになってきている。今後この流れはさらに加速すると思われます」

 取材に対応してくれたのは、キャドセンター空間情報デザインチームの河原大氏と同社プロデュースグループ営業2部の古川修氏。

「当社はもともとマンションなど建築パースのビジュアライズからスタートした会社です。今年で設立30周年なのですが、当初から『図面』というアナログをCGで『見える化』することを続けてきた会社なのです」(河原氏)

 かつてはアナログな図や模型などを使っていた建築パースも今はCGが主流だ。完成イメージを伝えるために、広告物の「顔」としての建築パースを制作するが、対象は建物だけでなく周辺の街並みなども含まれる。

 欠かせないのが「周辺環境」の表現だ。病院や学校、ショッピング施設など、生活に密接に関連する施設が、マンションの付近にどう分布しているのかをわかりやすく示す。以前は地図と写真を組み合わせてきなパネルなどを作っていた。これもパソコン画面で一覧するのが今や当たり前になっている。

「物件の周辺環境を表現する際に3DCGのマップなどについても作り込んでいきます。こうした技術及び表現とハザードマップ(被害予測地図)を結びつけることで、防災の世界でも弊社の強みが生かせるわけです。

 ハザードマップの3D化は2005年ごろより取り組んできましたが、2010年ごろからはその内容を誰もが手にすることができるスマートフォンのアプリ『ARハザードスコープ』として展開しています。簡単に言うと、全国の自治体が作っているハザードマップの情報を取り込んでだれでも手軽に見える化するというものです」(河原氏)

「阪神・淡路大震災で想定外の被害が出た。そのころからハザードマップの必要性がより強く意識されるようになりましたね。2005年の水防法改正を機に制作された『浸水想定区域図』などは、堤防が決壊した場合の浸水想定を示したものです。つまりこうしたデータを各自治体は持っているわけです。キャドセンターはこれをもとに見える化を進めているということですね」(渡辺氏)

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