学校とも連携

「こういった具合に、面白い工夫もふんだんに盛り込まれた『東京防災』なんですけど、ただ配っただけでは単なる押し付けですよね。その後、例えば学校や企業などと連携し、何らかしらのアクションを起こすという動きはありますか?」(渡辺氏)

「鋭いご指摘ですね。我々もそこは当初から念頭においていました。現状としては、例えば都内の小学校から高校に、学年別の『防災ノート』を副読本として配っています。『東京防災』には避難の方法などが絵解きで説明されているので、『防災ノート』には防サイくんなどのイラストも含めてそれらをそのまま掲載しています。そして、ノートという形ですから、例えば『ではみなさんの家庭ではちゃんとやれているか調べてみましょう』といった問いかけをして、調べた事柄を書き込めるような欄を設けています。こうしたものを使っていただき、学校教育の中で防災意識が広まれば最高ですよね」(船川氏)

小学校1年生~3年生版の『防災ノート』の中身(<a href="http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2015/09/DATA/20p9a200_01.pdf" target="_blank">東京都の公式ホームページから</a>)
小学校1年生~3年生版の『防災ノート』の中身(東京都の公式ホームページから
[画像のクリックで拡大表示]

 『東京防災』の内容や、その後の展開について高く評価する渡辺氏だが、ここで終わらないからこそ“防災の鬼”なのである。渡辺氏は『東京防災』の「生活再建版」があればもっといいのではないかと、自らの経験をもとに語った。

「阪神淡路にしても東日本にしても、大きな被災地を見てきて分かったのは、『被災者って突然被災者になる』ということなんですよ。つまり突然に非日常の世界になってしまう。そこは分からないことだらけです。例えば『罹災証明って何?』というところから始まるわけですね」(渡辺氏)

「そうしたものにも対応できるように『東京防災』にも『生活再建支援制度と手続き』という項目を設けています」(船川氏)

「ただこれだとやっぱり文字が多すぎて、とりあえず書いてあります程度でとっつきにくい。今後はこの部分に特化し、イラストなどで分かりやすく説明した『東京防災第2弾』を作ってもいいと思いますよ。

 第2弾は『被災その後』、つまり復興に向けてのことを分かりやすく表現したものになるといいよね。災害が起これば『災害対策基本法』から始まって『災害救助法』があって、『被災者生活再建支援法』というように、ある程度パターン化された法や制度の流れがあります。災害のたびにこれらを使っているわけですから、そういうのを分かりやすく伝えることが本当に大切だと思っています」(渡辺氏)

 このような指摘に対して、「そうしたご指摘もあります。今後は検討する価値はあると思っています」と船川氏も真摯に答える。

 取材を終えて超高速ビルの東京都庁を見上げながら“防災の鬼”渡辺氏はつぶやいた。

「実際、今も地域防災計画の構造的な欠陥があると思っています。阪神淡路の震災が起こって、その後、神戸市の防災計画の見直しに関わったときに強く感じたんだけど、当時は『応急復旧』の次が『復興』なんですよ。ところが被災者の立場にたつと、その間に『生活再建』というものがどうしても必要になってくる。ここの部分がスッポリ抜けていたわけ。そういうふうに、制度の抜け落ちというのはいつでも問題となるところです。そうした部分に『東京防災第2弾』が全国に先駆けてフィットする内容になれば、我々危機管理のプロとしてもありがたいんですけどね」(渡辺氏)