東京都をカバーできないワケ

 被災の規模にもよるが、発災から数時間はこのような地図を作る余裕もない。まずは人命救助、現場にいく消防署員や自衛隊に紙の地図を配る。彼らはその地図を片手に現場を走りまわることになる。

「現在、ゼンリンの住宅地図は全国のどのくらいをカバーしているのですか?」(渡辺氏)

「全国市区町村のうち99.6%です」(山本氏)

「残りの0.4%って?」(渡辺氏)

「7村、これは伊豆諸島と小笠原諸島です」(山本氏)

「えーー、だって東京都でしょ、痩せても枯れても首都ですよ」(渡辺氏)

 ここには深いわけがある。話は1993年に発生した北海道南西沖地震にまでさかのぼる。マグニチュード7.8の大地震。震源地に近い奥尻島を中心に死者は202人にのぼった。

「あの地震で、島は津波に飲まれて多くの住宅が流されました。所在不明者の捜索のためにも住宅地図が必要だということで弊社にオーダーがあったのですが、残念ながら奥尻島にかぎらず、日本の多くの島ではまだ住宅地図を作っていなかったんです。これではいけないということで、当時の社長からの大号令がかかり、人口カバー率100%を目指して、住宅地図作りを急ピッチで進めたわけです」(山本氏)

 ところがあと少しというところで、住宅地図のベースとなっている情報の取り扱いについて、行政との間に齟齬が生じたために、作業が一旦止まってしまい、今に至るのだ。

「しかし、近年の防災意識やニーズの高まりもあり、やはり必要だろうということで、カバー率100%を目指して現在も頑張っているところです」(山本氏)

自宅近くの大判住宅地図をプレゼントされ悦に入る“防災の鬼”
自宅近くの大判住宅地図をプレゼントされ悦に入る“防災の鬼”

「戦時中、地図は国の重大機密事項扱いでした。だから民間が勝手に地図を作ることができなかったわけです。現在でもISが支配する地域などに地図はありません。つまりゼンリンの繁栄は平和の象徴とも言える。現在住宅地図がない伊豆諸島と小笠原諸島は、南海トラフ地震が発生すれば、大津波の襲われるから作成を急がないといけない。今後も災害が起きる前に、災害対策には絶対に必要になる地図作りに多いに邁進してほしいものです」(渡辺氏)

 後半は、ゼンリンの進める各種事業についてさらに迫る。