米商務長官に指名されたロス氏は自由貿易に理解があるとはいえ、トランプ氏は政府内に「国家通商会議」を立ち上げる構想を抱いており、その委員長には対中強硬派で知られるナヴァッロ氏が起用される見通しだ。また、実際の通商交渉を取り仕切るUSTR代表に指名されたライトハイザー氏は、レーガン時代の対日貿易戦争の際にUSTRの次席代表を務めた経験のあるバリバリの保護主義者である。財務長官に指名されたムニューチン氏を通じ、新政権が為替操作国認定という圧力を掛け続けることも容易に想像できる。

 WTOなど国際機関の存在感低下が顕著な中にあって、「G2時代」にその両国関係を仲裁する機能が不在であることは実に不気味である。ウィン・ウィンであったはずの貿易関係が、保護主義とその報復措置の応酬で双方にとってマイナスになるリスクに、昨年まで市場は殆ど無警戒であったが、今年は注目せざるを得なくなるだろう。

 過剰生産や不良債権増に悩む中国はいま、資本流出による人民元下落とその対応としての介入による外貨準備の急減といった状況にも直面している。FRBの利上げ姿勢が人民元下落を加速すれば、成長鈍化の中での利上げを余儀なくされる可能性すらある。

トランプ相場は意外と長期化する可能性も

 1970年代は米中接近に拠ってロシアが封じ込められたが、トランプ政権は米露接近を通じて中国を孤立させようとしているようにも見える。足許の国内経済の行き詰まりを打破するために中国が対外的に強硬策を取れば、コラテラル・ダメージを恐れる市場も平穏ではいられなくなるだろう。アジアは新たな地政学リスクの場になる可能性がある。

 大統領選勝利後にトランプ氏が示唆した「一つの中国路線」の否定は、米中関係の悪化スピードを加速したかもしれない。米国は駐中国大使に習主席と親交のあるアイオワ州知事を指名すると報じられているが、中和剤としての機能は限定的だ。

 政治・経済分野での米中の協調関係は崩れつつあり、金融面では資本の流れが中国政治体制を揺さぶりかねない状況になってきた。昨年末から顕著になっている中国債券市場における利回り急上昇の傾向も、気になるシグナルの一つである。

 とはいえ金融市場は、いましばらくトランプ相場に酔うことだろう。このユーフォリアは意外に長期化する可能性がある、と筆者は考えている。相場の宿命として、早晩二日酔いに襲われる時期は来るだろうが、米国長期金利と米中関係の行方が深刻化しなければ、その頭痛も軽微に終わるのではないか。

 ただ、こうして頭で考えるシナリオに限界があることは、昨年貴重な教訓として学んだとおりである。昨年の悲観論は楽観論へとポジティブに変貌したが、今年それが逆回転したとても、もう誰も「想定外」という言い訳は出来ないだろう。

 2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。トランプ新政権のキーパーソンとなる人物たちの徹底解説から、トランプ氏の掲げる多様な政策の詳細分析、さらにはトランプ新大統領が日本や中国やアジア、欧州、ロシアとの関係をどのように変えようとしているのか。2人のピュリツァー賞受賞ジャーナリストによるトランプ氏の半生解明から、彼が愛した3人の女たち、5人の子供たちの素顔、語られなかった不思議な髪形の秘密まで--。2016年の米大統領選直前、連載「もしもトランプが大統領になったら(通称:もしトラ)」でトランプ新大統領の誕生をいち早く予見した日経ビジネスが、総力を挙げてトランプ新大統領を360度解剖した「トランプ解体新書」が1月16日に発売されます。ぜひ手に取ってご覧ください。