トランプ大統領の登場が、金融市場だけでなく実体経済のセンチメントも修正して民間投資の拡大を誘うようなことになれば、財務長官に指名されたムニューチン氏が掲げるような4%成長とまではいかなくても、3%前後の成長軌道を描く可能性が全くないとは言えなくなる。エール大学のケネス・ロゴフ教授のように「トランプ次期大統領の政策は米国経済再生の夢を実現させてくれるかもしれない」と期待を寄せ始めたエコノミストもいる。

 但し、上下院の過半数を共和党が握っているとはいえ、同党は財政支出拡大にはさほど熱心ではなく、トランプ氏のインフラ投資計画が思い通りに進まないことは有り得る。10年間で1兆ドル投資とは言いながら連邦政府の支出は限定的で、民間投資に対する税額控除が主体となる可能性が高い。市場の期待は明らかに過剰であろう。

 また減税に関しても、共和党重鎮のマコーネル上院院内総務が「財源無き減税には反対」との姿勢を示しており、歳入増の計画性が乏しいトランプ案は議会で厳しい洗礼を受けるかもしれない。企業収益に対するドル高の影響を懸念する声もある。かくして2017年の「多変量市場」は、トランプ氏の経済政策に対する失望感の台頭でいつか不安定化することは想定しておくべきだろう。

長期金利の上昇と米中関係悪化がリスク

 そうしたシナリオにおいて、筆者が最も重要なリスク指標になると考えているのは「米国の長期金利水準」と「米中関係の行く先」の2つの変数である。やや乱暴に言えば「トランポノミクス」への失望感による株価やドルの下落は一時的かつ限定的で、欧州や中東の激震もそれなりの下押し圧力となろうが、相場の反発力は残るだろう。だが米長期金利が3%以上に上昇したり、米中関係の緊張や悪化が鮮明になったりすれば、市場の楽観ムードが一足飛びに悲観へと転じる可能性があると考えている。

 まず長期金利の点から整理しよう。米国市場では既に「債券から株へ」の動きが生じており、それが多少加速してもさほどの影響はない、との見方も有り得る。だが1~2%台の長期金利推移に慣れた金融市場と実体経済は、恐らく3%水準の世界には相当の違和感を抱くことになるだろう。

 ダブルライン・キャピタルの最高経営責任者で「新債券王」の異名を取るガンドラック氏は「長期金利が3%に上昇すれば社債やジャンク債の市場流動性に影響が生じる」と指摘している。だがその影響は、自動車ローンや住宅ローンそしてカードローンなどの金利上昇を通じ、負債額が増加中の家計負担に反映されて、実体経済にも及ばざるを得まい。それは、いま市場の視野から消えつつある「景気拡大局面の終了」のシナリオを思い起こさせることになる。

 因みに現時点で米国経済の拡大は90カ月目(戦後平均は58カ月)に入っており、景気サイクルが成熟期或いは最終局面に近付いていることは否めない。トランプ氏のインフラ投資計画が実現化するのもまだ1年程度先の話である。長期金利が先走って上昇すれば、景気は腰折れしかねない。その長期金利上昇を誘い始めているのが、先般利上げを決めたFRBである。