こうしたポンド下落と英国債利回り上昇が示しているのは、ブレクジット決定を契機に機関投資家の英国社会に対する見方が変わった、という点だ。これまで自由で開放的な市場経済を「売り物」にしてきた英国が、移民規制や司法独立といった閉鎖性に政治的な優先度を置いたのは、従来の英国の路線が大きく修正されようとしていることを意味している。「自由」の象徴であったポンドが売り対象になったのは当然のことかもしれない。

 英国市場からは、財政収支と経常収支の双子の赤字を抱えながら政治的に彷徨する国の資産を欲しがる投資家など何処にも居ない、といった恨み節も聞こえる。同国の経常赤字は3年連続で過去最大を更新中であり、昨年第4四半期にはGDP比7%超という赤字を記録、財政収支はキャメロン前政権の緊縮財政でやや改善基調にあったが、メイ首相はその方針転換の姿勢を見せている。ポンドに一段のリスク・プレミアムを要求する市場の声は、決して不合理ではない。

「死に体の市場」だからこその怖さ

 そして、為替市場と国債市場がもはや流動性の高い市場ではなくなったことも、重要なインプリケーションを持つ。特に後者に関しては、英中銀は日銀同様に積極的な国債買い入れを実施しており、2018年までに市中残高の3分の1を保有する計算となっている。それは明らかに市場流動性の低下をもたらしており、今回の利回り急騰の土壌を形成したとも考えられる。

 日本では、日銀が「イールドカーブ・コントロール」を通じて長期金利水準を公的に制御する「金利操作」を開始し、10年債をゼロ近辺に固定することで金利急騰のリスクは低下している、との見方が大勢だ。市中発行の90%を日銀が購入しており、流動性が低下して長期金利は事実上固定相場となっているからだ。先月には10年債の業者間の出会いがゼロになる、といった事態にまで悪化している。

 だが、そうした「死に体の市場」であるからこそ、国債に何が起きるかわからないという怖さを英国債市場は示している。日本市場で10年債の利回りが逆に猛スピードで低下したり、20年債や30年債の利回りが急騰したりして、為替市場や株式市場における思わぬ大変動を生むようなシナリオは、もはやテール・リスクの段階ではない。

 今回のポンドと英国債を巡る大変動は、英国が来年3月までに「ハード・ブレクジット」路線を見直す可能性を示唆するとともに、流動性を奪い去られた市場に囲まれる中で長期的な成長戦略を見失うと何が起きるかという警告を、日本に事前に与えてくれたのではないか、と思わずにはいられない。