だが第一の点については既に実証研究でその有効性は立証されており、第二の点においては貿易を支える購買力は一人当たりGDPを尺度に置くべきだ、と同誌は述べ、また第三点のサービスに関しても、同時間帯や言語の共通性そして財との関連性などを勘案すれば重力モデルはまだ有効だと指摘し「ブレクジット派の主張には全く正当性がない」と断じている。

 また、EUが2009年から協議を続けているカナダとの包括的通商交渉が、ベルギー南部のワロン地域だけの反対であわや決裂しそうになったことや、英国がWTOに加盟し直す手続きの煩雑さなどは、離脱派の描く経済成長への青写真が全く非現実的であることを示しているようにも見える。

輸入コスト急上昇で「労働者の生活水準」に逆風も

 もっとも、離脱派への牽制球の威力としてはこうした経済的な議論よりも相場の大変動の方がはるかに力強い。31年ぶりの水準にまで下落したポンドは、いまや投機筋の絶好の売り対象となっており、先安観に怯える実需筋からの売りも加わって、一段安は不可避の情勢にある。その衝撃を受けて、過去最低水準を更新していた英国債の利回りも一気に上昇へと転じている。

 市場には、ポンド安で輸出増・輸入減となれば、高水準に達している経常赤字の縮小にも資する、と見る向きもある。ポンド安は同国の主要株価指数であるFTSE100を過去最高水準にまで押し上げており、日本市場と同様に英国市場が通貨安歓迎ムードにあることは否めない。8月に英中銀の金融政策委員に就任したマイケル・ソーンダース氏は、ポンド相場が新たな均衡点を探る動きの過程にある限り何の問題もない、との見方を示している。

 だがポンド下落は既に輸入コストの急上昇をもたらしており、9月の消費者物価指数は前年同月比1.0%上昇と2014年11月以来の高い伸び率となっている。この傾向が強まれば、メイ首相が気遣う「労働者の生活水準」に対する厳しい逆風になる可能性は小さくないだろう。カーニー英中銀総裁は先月「もはやポンド下落を無視し続ける訳にはいかない」と述べて、追加緩和姿勢を修正する姿勢を見せている。

 また、英国債利回りの上昇も経常赤字国の英国には厳しいシグナルだ。英中銀の追加金融緩和方針を受けて過去最低水準にまで低下していた10年債利回りは、ポンド暴落を契機に先月0.5%台から一気に1.2%台までの急上昇を示した。その背景にあった海外投資家による英国債の投げ売りは、構造的な経常赤字の下で対外資本に大きく依存する同国に対する追加的リスク・プレミアムの要求だと見て良い。

 今後、不透明感が増すに従って景気が下向くと懸念される中での金利上昇は、国内経済にも大きな脅威である。財政政策出動に前向きなメイ首相にとって、ファイナンス・コストの上昇は有難い話ではない。