勿論、中央銀行の一挙手一投足に過敏に反応する投資家が悪い、という見方も成り立つだろう。だが、市場の関心を惹きつけることはむしろ危機後の金融政策の狙いでもあった訳であり、現在の市場不安定化の源泉に中央銀行が一枚噛んでいる、といっても決して的外れではあるまい。

 株式や債券そして為替など世界の市場を激しく揺さぶっている筆頭格が、利上げへのメッセージ伝達で失敗を繰り返しているFRBである。昨年12月に「金利正常化」のスタートとして利上げした後、2016年は3カ月ごとに0.25%ずつ利上げするとの狙いは外れ、3月、6月に続いて9月も利上げ断念を余儀なくされた。

 FRBが昨年来「早期利上げ」のメッセージを繰り出して、緩和政策の長期化で緊張感を失いがちな市場に警告を与えようとしているのは事実だ。ただ、結果的にはその牽制球がどちらにも痛い死球となり「市場との対話は失敗続き」との印象を強めている。金融危機以降のFRBの景気見通しが外れっぱなしであることも、そのメッセージが市場に届かない一因に挙げることが出来るだろう。

 そして欧州中銀や日銀のはっきりしない姿勢も、債券市場に不安感を抱かせている。9月に入って、日本では一時マイナスとなっていた20年国債利回りが0.5%にまで上昇、ドイツでも10年債利回りがプラス転換するなど長期金利の上昇ペースは加速し、マイナス利回り債券残高が1週間で約1兆ドル減少する、といった荒い動きを生みだした。

 長期金利が上昇すれば株価が揺らぐのも当然である。米国のダウ、S&P500、ナスダックなど主要株価指数は8月中旬に揃って過去最高値を更新したが、その後はFRBに振り回される長期金利の不安定さを嫌気して、右往左往している。

 こうした動きを「2013年の再来」と見る向きも増えている。当時、FRBのバーナンキ議長が量的緩和の停止を示唆し、米国の長期金利が跳ね上がってドル高となり、新興国から資金が大量に流出するという騒ぎが起こった。今日では新興国市場は先進国市場より落ち着いている感もあり、過剰な危機感は不要と思われるが、確かに多少の相似性が無いとは言えない。信用構造の崩れが一度始まると修正が容易でないのは、中央銀行も同じである。

 資本市場が実体経済に強い影響を与えるようになった21世紀の資本主義の下で、金融機関が暴走するリスクは規制強化を通じて封じ込められているが、市場自身に植え付けられた暴走リスクは止めようがない。本来、その歯止めを掛けるべき中央銀行が逆に市場変動率を高めている事実は、現代経済社会において「2%の物価上昇率目標達成」が本当に正しい金融政策のゴールなのか、との素朴な疑問を浮かび上がらせている。

貿易統計で注目される「米国の中国からの輸入減」

 なんとか物価水準や期待インフレ率を引き上げようと中央銀行が四苦八苦している過程で、世界では幾つかの経済的な病状が悪化し始めていることにも、注意を払う必要があろう。

 まずは貿易問題である。既に本稿でも述べたように、世界貿易量は2014年12月以降、殆ど増えていない。その主因として原油安や中国の輸入減退、保護主義的傾向の強まりなどが挙げられてきたが、昨今の米国の貿易統計から「新たな減少要因」がクローズアップされている。それは「米国の中国からの輸入減」である。