EUはそもそも国家の利害主張を排除するためにブリュッセルに行政府を置いたが、金融危機などを背景にそれが次第に独仏主導の構造へと変化し、いつの間にかドイツがEUを率いるような姿に変わってしまった。ドイツ経済の強靭さとメルケル首相以外に実力者が居ないという政治の実態が、その動きに拍車をかけたのである。

 そこで主軸が不在となれば、EUの結束力は急速に弱体化しかねない。英国との通商交渉も足並みが乱れて収拾がつかなくなる可能性もある。メイ首相率いるブレグジット・チームが右往左往することは避けられないだろう。ロシアはその失地回復作戦を一段と積極化させることも想定される。ドイツの政治リスクは、オランダやフランスの比ではない。

 また北朝鮮の暴走リスクが現実味を帯びてきたことで、東アジアも欧州や中東と並ぶ地政学リスクの対象として急浮上してきた印象もある。市場はこれまで北朝鮮問題に対しては強い関心を払ってこなかったが、今後も「たいしたことは無い」と高をくくっていられないかもしれない。

 北朝鮮を巡る問題が、現実認識に欠けるトランプ大統領と責任回避に余念がない習主席の間でどう処理されるのか、判断が付かない。韓国は事実上、大統領不在の国家となっており、当事者能力が著しく低下している。日本はといえば、現実の脅威に晒されているのに、政府は国会でつるし上げを食らっている防衛大臣を守るのに必死という惨状である。これを地政学リスクと言わずして、何と呼ぼうか。

 とはいえ足元の市場を見る限り、株価の急落や長期金利の急上昇といったパニックが起きるようには思えない。トランプ大統領の躓きで、ダウが2万ドル近辺まで押し戻されたり、ドル円が110円を割り込んだりすることもあるかもしれないが、そこはしっかりとビッドが入ることだろう。

 投資家にとって、トランプ大統領が運んできた「待ちに待った強気相場」は簡単に捨てられないのである。S&P500は2015年には下落、2016年も5.5%の上昇に留まった。20%前後の上昇を誇った1990年代の再来を夢見る個人投資家は少なくない。慎重だった機関投資家でさえもしばらく現金を株などの資産に振り向け始めている。

 ただし、その相場観は自信に満ちたものというより、買わないリスク、持たないリスクを回避しようとする姿勢が強いように思われる。筆者自身も未だに、すっきりした強気のイメージを描き切れないでいる。それは、前述したような長期停滞説の持続性、原油価格の低迷、地政学リスクの台頭といった要因がいつかどこかで投資見直し材料として浮上してくるだろう、と怯えているからだ。

新興国市場に対する不信感との共通点

 最近の投資環境への不安感は、新興国市場に対する漠然とした不信感と共通するところがある、と英資産運用大手シュローダー・インベストメント・マネジメントのステーニス氏は指摘している。新興国市場への投資にはカントリー・リスク分析が最重要であり、内外環境が政治経済に与える影響を詳細に調査する作業が不可欠となるが、投資不足や構造改革遅延、原油相場そして政治リスクが覆いかぶさる今日の先進国市場も、確かにそれに似てきたと言えよう。

 新興国経済は、苦し紛れにリフレ政策を導入して短期的に景気を底上げしてはその持続に失敗する、というサイクルを続けて久しい。ひょっとして先進国の政治経済もそんな循環に入ってしまったのではないかという懸念が消えるまで、長期的に強気な相場観には戻れそうにない。