輸入へのハードルが高まることで対米輸出に悪影響が出ることを懸念する諸国は「明らかにWTOルール違反だ」との姿勢を強めており、特に貿易面での影響を危惧するEUでは「米国との全面対決も厭わない」といった声が上がり始めているようだ。当時米国が輸出業に補助金を与えているとしてEUがWTOに提訴し、米国が敗北した前例があるからだ。

 米共和党は「EUに輸出補助金が認められ、米国に出来ないのは不公平だ」としてトランプ大統領を焚き付け、その怒りのパワーを借りてこの問題を蒸し返そうとしているのかもしれない。EUがこれに神経を尖らせているのも頷けよう。

 税の専門家は、WTOルールに照らせば今回の米国の減税案は明らかに違反だ、と見做しているようだ。もし米国が「不公平を是正する」の一点張りで強行突破しようとすれば、カナダ、メキシコ、中国に続いて欧州までも敵に回す可能性がある。この問題に関し、何故か日本政府は沈黙したままだ。

国境調整はいずれドル高を招く

 但し、対米輸出の減少で一番困るのはやはり中国だろう。2016年の同国対米輸出は全輸出の18%に相当する4100億ドルに達しており、GDPの3.8%に相当する規模である。輸出企業に従事する約1億2000万人のうち、対米輸出を主軸とする企業の労働者数は2000万人に上ると見られている。米中貿易戦争といった事態に発展すれば、それは中国の社会不安に直結しかねない。中国も高飛車には出られない。

 他にも米国と中国双方への輸出依存度が高いベトナムやフィリピン、そしてインドやパキスタンといったアジアの国々も少なからぬ影響を受ける。それは間接的に日本経済にも波及するだろう。だがこうした国境調整がアジア経済を揺さぶり、世界経済への逆風になり得ることに対して大統領も共和党も、そして安倍政権も無頓着のままである。

 また多くのエコノミストは「国境調整はいずれドル高を招く」と見ている。輸入コストの上昇が物価水準を引き上げてインフレ気味になる、輸出が増えて輸入が減り貿易収支が改善する、といったルートであろう。ドル建て負債の多い中国や韓国そしてトルコなどの新興国は厳しい逆風に遭遇し、ドル高が招く原油価格の割高感で景気後退に陥る国が出てくるリスクを指摘する声もある。減税策はトータルで見て、株式市場が夢見ているような米国経済への順風になるとは限らない。

 またトランプ政権は先週、移民の強制送還対象を拡大する新たな措置を発表している。国土安全保障省は前政権下で黙認されていた不法移民を徹底的に追放する方針であり、約1100万人といわれる不法移民らの不安心理が増大、特に住宅市場を一気に冷却させるとの見方が急浮上してきた。

 政策の大胆な方向転換によって、実体経済と資本市場に多大な影響が生じることは不可避である。プラスもあればマイナスもあるだろう。現在の米国株市場は目先のプラスだけを凝視し、ネットでマイナスになるリスクには全く目を向けていない。それは、2013年春に黒田日銀が放った「異次元の緩和政策」に対する当時の日本市場の浮ついた雰囲気と、どこか似ているような気がしないではない。