2017年最初に市場のさざ波をもたらしたのは英国のメイ首相であった。昨年6月のブレグジット決定から約7カ月が経過、メイ首相は「決められない首相」「優柔不断なメイビー首相」などと揶揄されていたが、先月漸く発表したその基本姿勢はいわゆる「ハード・ブレグジット」と呼ばれるEUからの完全離脱の方針であった。

メイ首相の「プランB」にEU諸国は猛反発

 その内容は、予想通り移民流入規制と司法権限独立を支柱とするものであり、EU単一市場へのアクセスや関税同盟からの離脱方針が明確化されている。市場はブレグジットの姿が明確になったと評価しているが、金融機関や企業そしてEUへの残留を望んでいたスコットランドなどは、いま強い不安に包まれていることだろう。

 特に「ハード・ブレグジット」により、EU全域でビジネスができる「金融パスポート」を失う可能性の高い金融サービス業は、戦略見直しが必至の情勢だ。英国は「パスポート制度」から「同等なシステム(エクイバレンス)」つまり英国とEUとで規制が両立しうるとの認識による金融サービス継続へと戦術変更を余儀なくされると思われる。

 だが、EUが英国を同等と承認するまでどれくらいの時間が掛かるのかが定かでなく、EUはその適用を1カ月前の通知で取り消すことが可能な仕組みになっているため、金融機関は安心して営業することができない。

 歴代の首相と違って金融に特段の興味を抱いていないメイ首相が、どれほど精力的にこの問題に取り組むのか、との猜疑心も目立つ。既にHSBCは「脱英国」の準備を具体化していると見られ、ロイズはフランクフルト支店を子会社に衣替えする、とも報じられている。ゴールドマン・サックスがロンドンの陣容を半減し、UBSは投資銀行部門をマドリードに移転する、といった観測記事も散見されている。

 メイ首相が3月に離脱通告を行えば、2019年3月を以て英国はEUから完全に切り離されることになる。英国は混乱を避けるために「段階的な移行措置」を求める方針のようだが、EU側が寛容な対応を見せる保証はない。関税同盟に代わる新たな協定締結にどれくらいの期間を要するかも全く見当もつかない。同首相は「EUからは離脱するが欧州からは離脱しない」と述べたが、そのレトリックには非現実感も見え隠れしている。

 特にメイ首相が「バッド・ディールよりもノー・ディール」と述べ、有利な通商協定が得られなければ協議は停止して「プランB」即ち低税率の導入や規制緩和で資本や企業を呼び込み、英国独自の経済成長モデルを追求する、という考えを示したことに、EU諸国は猛反発している。

 相手を脅して有利な条件を引き出そうとする戦術は、むしろ英国の立場の弱さを示しているのかもしれない。同首相は英国とEUが自由貿易協定を締結するのは経済的に合理性があると述べているが、EUの政治的な論理とは噛み合わないように思われる。