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110カ国以上で緊急援助、開発事業などに関わり、現在、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長を務める國井修さん。生涯のテーマに掲げる「No one left behind(誰も置き去りにしない)」を実現するために、何が必要なのか。時折日本に一時帰国した時に“逢いたい人”との対談を通して探っていく。第11回のゲストは、起業家で音楽活動も展開するケン・マスイさんです。
ケン・マスイさん
EDGEof共同最高経営責任者(Co-CEO)。1972年東京生まれ。幼少期をアメリカワシントンD.C.で過ごす。大学卒業後はZIP-FMやJ-WAVEなどのラジオ番組でDJを担当。2017年にEDGEofのCo-CEOに就任。Mr ChildrenのMusic Director/Creative Directorも務める(写真:木村輝、以下同)。

國井:今回のゲストは、ケン・マスイさんです。ケンさん、まずは「EDGEof(エッジ・オブ)」を始めた経緯を教えてください。

マスイ:いまの時代、人と人が出会ってつながることはとても簡単ですよね。デジタルアプリが普及して考えやアイデアもすぐにシェアできる。ただ直接的な交流の場は減っていて、だからこそ重要なポイントになると考えました。会議も食事も仕事も、誰と何をその場で共有するか。そこで生まれたセレンディピティ(予想外の発見)で、人生の9割が決まる時代が来るはずです。共同最高経営責任者(Co-CEO)でビジネスインキュベーションのコンサルタント・小田嶋アレックス太輔氏のほか、スタートアップ支援会社ミスルトウの孫泰蔵社長ら6人で一昨年事業をスタートしました。

 理念を実現するために、渋谷のタワーレコード向かいの8階建てのビル1棟をリノベーションして、起業家、企業、行政、投資家、エンジニア、学生など、様々なアイデアを持った人たちの交流拠点を作りました。

國井:今日はこのビルが対談場所です。

マスイ:はい。2階では100人から300人規模のイベントを開催して、3階でプロダクトのアイデアを練り、4階の本部ではパートナー企業とビジネスを考え、5階で学生やスタートアップの人たちと議論して、6階でトップクリエーターと話し合い、7階で自分たちのビジネスについてメディアに発表して、8階でパーティーをして、屋上のバーで酔っ払って帰る(笑)。ゲストの8割が外国人なのでお茶室も作りました。ワンストップのこのビル自体がメディアになることを目指して、デザインも自分で手掛けたんです。コワーキングスペースではなく、主に企業からの協賛で運営しています。

パーティスペースにもなる屋上には、イノベーターを導く思いを込めて「灯台」のモニュメントを設置した
ビルの地下1階に作った茶室には、実際の太陽の動きと連動したライティングを導入

國井:「EDGEof」というネーミングの由来は?

マスイ:世界を覆すようなひらめきは、いつも端っこから生まれてくる。たった1人に芽生えたひらめきが多様な人と出会って広がっていく。その化学反応の場となるように名付けました。多種多様な主張、宗教、性別……いろいろな人と人をつなぎ合わせたいんです。

國井:ケンさんのお仕事とは分野が違いますが、私も人と人との化学反応が大好きで、現在働いている機関では、組織と組織の化学反応とも言えるパートナーシップにも力を入れています。そこからいろいろなイノベーションが生まれますからね。たとえば、私が管轄するあるチームは60か国以上の開発途上国の国家保健医療情報システム支援でイノベーションを推進してます。あるメジャーな援助機関は以前、多くの資金をかけて最初から「完璧」な「洗練された」システムを開発途上国に導入し、ある意味で無償の押し売りをしていたことがありました。でもそれは、あまりに高度で複雑なので現地の人が使いきれない、閉鎖されたシステムで他のシステムとの整合性・調和性がない、予算がかかり維持が面倒などの問題があって、結局、パイロットで終わり、定着・拡大しなかった。

 そのため、現在、我々が支援しているものは、できるだけ単純でわかりやすく、現場の人々が操作しやすいもの、可視化などができて現場の仕事に役立つもの、多くの人や組織がそれを使いながら改良していけるものです。イノベーションは必ずしもハイスペック、ハイエンドでなければならないわけではなくて、単純でわかりやすく、誰でも使えるものであってもいい。多くの人がそれに関心を寄せて、それを使って、どんどんシステムを改良していける、使う人々、組織がそこで化学反応を起こせるような、そんなシステムがイノベーションにつながることもあるんだと思います。

マスイ:それにはオープンソースであることが大事ですよね。EDGEofでも、フィジカルに人がコネクトできる場を作りたかったんです。