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国際医療の基本は現地で「頑張りすぎない」

野口:先生は世界中の大変なところを回られて、バーンアウトした経験はありますか。

國井:その直前まではありますよ。ソマリアの難民キャンプで1日100人ぐらい患者を診て、肺炎やコレラなど重症患者がいっぱい来て、薬がすぐに底ついて。キャンプの中を巡回診療したら、診療所に来られない重症患者がまたたくさんいて……。自分がやっていることが無意味に感じて、虚無感を感じましたね。日中摂氏50度の暑さだったしね。

野口:そうですよね。

國井:ただ、あのときはまだ若かったからやれた。でも極限近くまでくると、意識が薄れて何かが切れそうになっていくのを感じましたね。

野口:バーンアウトして、国際医療から手を引いちゃう人もいますか。

國井:いますよ。燃え尽きる、っていうけど、本当にガス欠になって動けなくなる状態。緊急援助だけでなく他のすべてにおいて気力が失せて、入院した人や家庭が崩壊した人も。だから、現地ではできるだけ「頑張りすぎない」、できれば定期的に現場を離れる、というのが基本なんです。

野口:先生のような専門家の意見があるのに、社会全体には我慢すべきみたいな風潮がある。僕が一番訴えたいのは、これだけ災害による避難所を繰り返してきたのに、素人のままということ。例えば、東北の教訓がその後に生かされていない印象があって。朝倉市の避難所に行ったら、学校の体育館が避難所で責任者がいない。学校の先生は関与せず、市の職員は毎日代わるし、避難者がいっぱいいるのにコントロールする人がいないんです。市長に会いに行っても、現場から何も聞いてないと……。災害のたびに、一からあたふたを繰り返していると感じるんですよね。

國井:避難所管理ってすごく難しい。日本の場合は縦割りの責任管理がネックで、避難所が学校の場合、学校の規則により校庭で炊き出しの火を使ってはいけないとか、公共施設であるアリーナのような体育館でも、その管理上いろんな制約や規則がある。そこに水が関わると水道局の話だからそこに聞いてくれとかね。避難所の管理運営にいろんな行政がかかわり、前に進まないことがある。緊急事態なのに、責任を誰が取るかというところで悩んでしまい、時間や手間がかかることがある。

野口:でも、例えば市が指定している避難所は、誰が責任を持ってマネジメントするか事前に準備できますよね。

國井:できているようですね。最近は避難所管理マニュアルが改訂されたりして、責任の所在、役割分担、連携、命令指揮系統などが明確になってきています。でもこれまで大規模災害を経験していない場所で実際に緊急事態が起こったとき、そのマニュアルがすぐに使えるかというと疑問なものも多い。事前に100%準備していても、実際にできることは50%程度と考えて、できるだけ具体的に、方向性や柔軟性も含めながら用意しておかないと動かないんですよね。

野口:欧米では難民キャンプを地元の業者がやっていたりする。日本と比較して、違いがありますか。

國井:アメリカでハリケーン・カトリーナがあったとき、ニューオリンズなどが水没して、アストロドームを含めて大規模避難所が設置されましたよね。アメリカでは避難者を収容するシェルターから食料、水・衛生など緊急援助のためのマニュアルはしっかりしていて、それもフェデラル(連邦)とステイト(州)での役割分担や市民社会との連携などがきちんとしていた。

 特にアメリカはFEMA(Federal Emergency Management Agency、フィーマ)と呼ばれる連邦緊急事態管理庁が縦割りの弊害を最小限に抑えて国家的な緊急事態で連携協力体制を作るんですよ。災害大国日本ではFEMAのような機関が必要だと思います。日本では国、都道府県、市町村の縦の連携と、セクター間の横の連携。役割分担はある程度明確ですが、ではそれをどのように協力・連携し合うか、補い合うかということについて未だ不十分なところがあるように思います。災害の対応マニュアルはかなりできているけど、市町村にはキャパがないところも多い。大規模災害になると本当に混乱しますし、すべてのレベルでの連携・協力、助け合いがスムーズに行われないと。

野口:特に被災自治体は混乱します。

國井:そうそう。熊本地震の災害支援で感激したのは、東日本大震災で被災した宮城県の石巻市の保健師さんたちが熊本に支援に行って、僕のところにリポートをすぐ送ってくれたんだけど、石巻で得た教訓を熊本の現場でフルに活用していたこと。1~2週間熊本の現場で支援して、現場でやるべきこと、課題などがすぐに見えているんですね。これはこうしてこうすべきだと整理して、今後やるべきチェックリストも現場にアドバイスして置いていって。学び合い、助け合いというけど、それを実行している。

 日本、特に行政には真面目で責任感がある人が多いから、行政に任せられた仕事は自分たちできちんとやる、という思いが強いでしょ。自分の地域は自分たちで守らなくちゃいけない、あまり人の世話になったり迷惑をかけてはいけないという文化は、海外に比べて日本はすごく強い。