「紛争」と「兵器」

 では、なぜこれほどまでに女子や若い女性がHIVの「餌食」になっているのだろうか。

 様々な背景・要因があるが、そのひとつにアフリカで頻発する紛争がある。いつの時代も、どんな場所でも、紛争・戦争は罪もなき女性や子どもに大きな被害を与えるが、アフリカでは特に女子・女性をターゲットにした暴力、性的暴行・搾取が横行している。

 1994年のルワンダの大虐殺ではなんと50万人の女性が犠牲になり、リベリア内戦では難民キャンプに避難した7割以上の女性が性的暴行を受けた。コンゴ民主共和国では、レイプの前後に銃や木の枝を性器に挿入され、膣や子宮のみならず、膀胱や直腸まで損傷した女性をはじめ、耳を疑うような悲惨なケースが数多く報告され、中央アフリカ共和国、シエラレオネ、スーダンではレイプが戦争兵器として組織的、大規模に繰り広げられた。

 特に、当時「感染すればほぼ100%死亡する」と恐れられたエイズがアフリカで蔓延してからは、その「戦争兵器」の威力は高まり、性的暴行はエスカレートしていった。

 武装兵士に捕まえられた後、HIVに感染した別の兵士の下に連れていかれてレイプされた女性、「おまえを殺したりはしない。それよりもっと悪いものをやる。おまえはゆっくり死んでいくのだ」と言われて暴行を受けた女性など、数々の証言も残っている。

「迷信」と「風習」

 紛争もなく、政情が比較的安定していながら、性的虐待・暴行がはびこっている国も多い。

 中でも南アフリカでは、およそ5分に1件の割合で性的暴行が発生し、中でも18歳未満の被害は多い。12か月未満の乳児へのレイプも少なくないという。

 南アフリカ、ザンビア、ジンバブエなど南部アフリカ地域のHIV有病率はとても高いが、その地域には「処女とセックスするとエイズが治る」との信仰があり、それが女児・女子、若い女性への性的暴行に拍車をかけているとの指摘もある。

 一方、自分がHIV陽性と知らずに、感染を広げている人々もいる。南アフリカだけに注目しても推計700万人のHIV感染者がいるが、その半数は検査も治療もしていない。知らず知らずのうちに、未成年女子や若い女性にHIVが伝播されているのである。

 虐待や暴行によらずとも、男性優位の社会・文化・風習が女性のHIV感染を高める。

 アフリカには、女性が男性の「所有物」とみなされ、事実上、金や家畜(牛や羊など)と交換される地域も少なくない。父親、時には祖父と年齢が変わらない男性の下に、未成年の女子が牛1頭と交換されて嫁いでいく。そんな家庭をアフリカの村ではよく見かけた。

 結婚しなくとも、貧しい女子が金のある年上男性から金や物を貰う代わりに体を提供する「援助交際」が日常的な地域もある。学校に通学するための制服や教科書、中には生理用品を買うお金がないために、仕方なく援助交際をして小金を稼ぐこともある。その結果、HIVウィルスも貰ってしまう女子が少なくないのである。

 マラウィ、ケニア、ボツワナなどには、女性が夫以外の男性との性行為を強要させられる儀式・風習が残る地域もある。夫が死亡するとその妻は汚らわしい存在とみなされ、地域の長老が葬式後に村の男性を選び、その女性の浄化のためにセックスを強要するのである。

 ある地域では、出産や流産、祝い事(たとえば漁師がボートを手に入れた時)などの大きなイベントの時にも、祝福や厄払いのために同様の儀式が行われることもある。

 さらにアフリカには特殊なセックスの嗜好・習慣が残っており、それがHIV感染リスクを高めてきたといわれる。ドライ・セックスと呼ばれるものである。

 これは前戯をせず膣壁が乾燥したドライな状態でセックスをするもので、時に砂や薬草、漂白剤などを膣内に入れて膣液を拭い、またその分泌を抑えることでさらに膣壁を乾燥させる。この状態で性器をこすり合わせることで痛みを生じ、それが快楽につながるのだという。

 本来、潤滑保護作用があり免疫効果もある膣分泌物を除去することで、お互いの性器に傷がつき、出血もしやすい状態になるので、どちらかがHIVに感染していた場合の伝播リスクは一気に高まってくる。

 このようにアフリカには、若い女性が同世代の男性に比べてHIV感染が極端に高く、HIVが女性の主要死因になる様々な理由・背景がある。