実務上で役に立つ学問は経営学と歴史

紀谷:役に立つ学問、私は実務上2つあるなと思っています。1つはマネジメント、経営学。リーダーシップ論やマーケティング論は即座に役に立つ。この目的を達成するためにどういうふうに情報をマネージして、どういうふうに人をエンカレッジして、どういうふうにリソースを配分していくか。これは企業経営においてはCEOの役割いかんにかかっていて、それは国家の運営にも支援の現場にも有効に生かせます。

 ただ、これだけじゃいけない。もう1つすごく役に立つ学問が、歴史です。リーダーシップとマネジメント力があれば、悪い目的を実現するためであっても、効果的に人を動員して、結果を出せます。ですから、良い目的は何かを見いだす力も大事なのです。

 世の中の価値観がどう動いていて、潮流はどうなっていて、何が世界から、国民から求められているのか。国民の理解を得ながら、でも国民から若干離れたリーダーシップを提示して、この指止まれといって動かしていく……。大事なのはその国民とリーダーの緊張関係と信頼関係です。

 ポピュリズムにも貴族主義にも走らないで、どういう感じで民主主義社会というものを機能させていくことができるのか。日本はそれはどうしているのか、いつ成功して、いつ失敗したのか。これはやっぱり歴史の経験なり事例から学ぶことができる。たぶんその、歴史とマネジメントを両方組み合わせることが、いろいろな組織を運営する上で大事だし、特に日本政府の政策を決める上ではすごく役に立つと思っています。

國井:私も同感です。マネジメント、リーダシップ、歴史、加えて哲学、政治学。最近は医学や保健医療以外の本や資料をむさぼってます。

南スーダンで太鼓、ねぶた、ゴミ拾い

國井:さて、南スーダンには自衛隊がPKO活動のために派遣されていました。そこでの大使の責任は大変だったのでは?

紀谷:バングラデシュでは開発援助のオールジャパンでしたが、南スーダンは自衛隊を含めた、文字通りのオールジャパン体制でした。

 もともと現地ODAタスクフォースがあったのですが、自衛隊派遣にともない現地PKO-ODAタスクフォースというのをつくって、部隊の隊長さんとJICAの所長さんと、大使館、私も加わって、定期的に会合を開いて、どういう形で成果を出すための連携をするかを話し合いました。第一に、JICAさんが橋、河川や港の補修事業などをやる上で、その現場を守るための柵の造成を自衛隊が担うとか、そういう事業の連携ですね。

 第二に、治安対策の連携。お互い情報交換、情報共有をする。第三に、対外広報の連携。例えば、JICAが支援するスポーツ大会のときに、開会式で自衛隊が太鼓を叩くとか。

國井:太鼓ですか?

紀谷:自衛隊の太鼓、すごいんです。アフリカの人たちにすごく受けるんです。
 自衛隊はマルチタレント集団なんですよ。踊りもあるし、そうそう、ねぶたもやっていました。半年ごとに派遣されてくる部隊が変わるので、それぞれ地元のいろいろな文化を持ってくるんですよ。

 そもそも日本において、基地があるところでは地元にいろいろ迷惑をかけるということで、地元住民との交流に力を入れています。それぞれの部隊にそういうツールなり、スキルなり、経験があって、それを南スーダンでも披露するわけです。

國井:なるほど。で、先ほどのスポーツ大会というのは現地の人たちと一緒に取り組まれたのですね。

紀谷:そう、現地にはいろいろな民族がいるんですが、なかなか相互に仲良くなる機会がない。そこで日本の国体のようなイベントを開催して、皆が同じ土俵で、フェアプレーの精神でスポーツを楽しみながら、相互理解を深めようという狙いです。現地にも1970年代にこうしたスポーツ大会があったので、それを復活して国民意識を高め、若者がスポーツに勤しむことで力を持て余しての暴力事件なども減らす。こうして国民和解、融和に貢献する。

國井:まさに平和構築活動ですね。

紀谷:そして大会が終わったら、皆で一緒にゴミを拾う。JICAの職員とか、自衛隊員とか、無償資金協力の事業をやっている建設会社の職員とか、皆で会場のゴミ拾いをするんです。南スーダンの清掃員と一緒に。こうした日本的な取り組みが、現地の人には強いインパクトを与えるんです。

國井:大使の紀谷さんも一緒にゴミ拾いを?

紀谷:もちろん。

國井:一般の人たちが持っているであろう「大使=偉そう」なイメージとはかなりのギャップがありますね。

紀谷:途上国の大使の役割は、切り込み隊長です。職員も少ないから、自分で動く。現地の人たちとコミュニケーションをとって関係を深める。

 保健分野では献血制度の構築支援を進めました。2013年12月に最初の衝突があって、そのときジュバで死者や負傷者が出て血液が足りなかった際、ケニアから空輸で血液を運んで対応した経験もあったので、献血制度の構築が急務だと。

 構築のための金額は他の支援と比べれば高くないんですが、これはもう急を要する人道支援になる。特に女性の出産ですよね。あとマラリア対策にもなる。制度構築の過程で、人材育成もできる。これは理想的に日本の支援の思想、理念に合うんですよ。

 なおかつ、このプロジェクトをサポートしたのはWHOのほかは日本だけでしたから、南スーダン政府の保健省のマークと、WHOのシンボルと、日本の旗、この3つのシンボルが並んで皆の目に届いた。これは大きなアピールになりました。

國井:いい取り組みでしたね。

紀谷:着任して最初の世界献血デーの時は、私もみんなと一緒に献血をしました。その後も行事があるたびに献血した。

國井:お金だけでなく、血液も貢献(donate)する。

紀谷:迷信の多いところなので、献血の啓発にもなります。

國井:そういう活動はまったく日本では報じられなかったけれど、そういう取り組みとともに自衛隊の活動もあったわけですね。具体的にはどんな活動が行われ、現地の反応はどうだったんでしょうか。

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