「失敗国家」ではなく「挑戦国家」

國井:私は、紀谷さんが南スーダンに行くというのを聞いて飛び上がって喜びました。通常は外務省のキャリアの方々は避けたがる過酷な場所です。平和構築とか人道支援とか口で言える人はたくさんいますが、実際に現場に住んで仕事をしようという人は少ないです。また一緒に、いろいろな形で仕事ができるなと嬉しくなりました。

 南スーダンやソマリアをグローバルファンドでは、チャレンジング・オペレーティング・エンバイロンメント(COE: Challenging Operating Environment)、「オペレーションが難しい環境」と呼んでいるんです。一般には「失敗国家」とか「破たん国家」と言われるけれど、それらの国に失礼な呼び方じゃないですか。

 我々が支援しているCOEは20カ国ほどあるんですが、その中でも南スーダンはとても難しい国ですね。そこに紀谷さんが入って、現場で様々なカウンターパートに耳を傾けてつないでくださってる。頼もしかったですよ。

紀谷:当時、日本はグローバルファンドを通じて南スーダンのエイズ、結核、マラリア対策を支援していたわけですが、その資金の使い方でちゃんと説明できないような問題が生じているとグローバルファンドが考えて、これは信用できない、ということになって。普通はカントリー・コーディネーティング・メカニズム(CCM: Country Coordinating Mechanism)、つまり政府とか市民社会とか国際機関とかが連携して受け皿になって、そこにグローバルファンドがお金を出して、関係者が一体となって最もよい形でインパクトのある成果を出す、という仕組みですね。

 お金の使い道については当然、政府が中心のCCMがグローバルファンドに説明することになっているんですけれども、南スーダンの場合は信頼関係が壊れてしまい、お金を流せなくなってしまった。そこでグローバルファンドとしては他の組織を通じて支援することにしたのですが、それにも南スーダン政府は反発して。

國井:そうでしたね。

紀谷:南スーダン政府は、自分たちはちゃんとやっている、と。指摘された問題点もすべて打ち返したのに、全然信じてくれない。なおかつ、南スーダン政府としては、代わりに選ばれた他の組織は現状や実態がよくわかっておらず、すごくやり方が下手で、自分たちがやった方がはるかによくできると思っている……。政府の不満が高まって、混乱が続きました。

 しかし誰が一番被害を受けるかというと、それはもう国民なんですよね。マラリアの問題がやっぱり一番深刻で、大使館員もマラリアにかかりましたし、子どもたちがたくさん死んでいるし、もう喫緊の課題。私は保健大臣と会った時に、大臣から「なんとかしてくれ」と頼まれたので、WHOに駆け込んで、どうしたらいいんだと相談したら、ともかくグローバルファンドと政府の間を取り持ってはどうか、と。そこで、南スーダン現地の関係各所を自ら全部回って話を聞いて。結局、どちらかが一方的に悪いというより、様々な問題や行き違いがある。そうした問題点を一つずつ調整していって、何とかお金が回るようにして。

國井:ここでも紀谷さんの調整力が発揮された。

 そもそもこうした問題は、結局どのぐらいのリスクマネジメントとフレキシビリティーのバランスをとるか、なんですね。例えば、政府に問題があれば、ゼロ・キャッシュ・ポリシー、つまりキャッシュは一銭もそこの政府には渡さない、流さないとなる。リスクマネジメント上は仕方ない措置です。

 ただ、支援を本当に必要としてるのは紀谷さんご指摘の通り、国民なので、政府にお金を渡さないで、いかに国民にサービスを届けていくか。NGOなどを通じて支援していけば、ある程度はサービスを提供できますが、政府を無視していいのか。

 将来的には国として自立しないといけないので、汚職などに紛れていても、政府をただ見限るのではなく、透明性を高めたり、行政能力を高めていったり、という取り組みも必要になる。要はそのバランスなんですよね。

紀谷:WHOも政府とはうまく通じるけれども、なかなか政府に反することは言いづらい。様々な関連組織もグローバルファンド寄りの立場を取らざるを得なかったりとか、政府側の立場を取らざるを得なかったりとか、こういうポリティカルエンバイロンメント(政治環境)をどうやって乗り越えるかは大きな課題で、うまく間を取り持つ仲裁者が必要になる。日本のように南スーダン政府の信頼を得ている国は強い。

國井:先ほどのケースでは、日本を代表している紀谷さんが仲裁してくれたわけですね。

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