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110カ国以上で緊急援助、開発事業などに関わり、現在、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長を務める國井修さん。生涯のテーマに掲げる「No one left behind(誰も置き去りにしない)」を実現するために、何が必要なのか。時折日本に一時帰国した時に“逢いたい人”との対談を通して探っていく。第7回のゲストは前・南スーダン大使の紀谷昌彦さんです。
紀谷昌彦(きや・まさひこ)さん
前駐南スーダン大使。1964年函館市生まれ。1987年に東京大学法学部を卒業後、外務省入省。ケンブリッジ大学歴史学部国際関係論修士号及び同大学法学部国際法修士号を取得。在ナイジェリア日本国大使館、防衛庁防衛局、外務省欧亜局・大臣官房・経済局、在米国日本国大使館一等書記官、在バングラデシュ日本国大使館参事官、外務省総合外交政策局国際平和協力室長、同国連企画調整課長、防衛省地方協力局提供施設課長、在ベルギー日本国大使館公使を経て、2015年から17年まで駐南スーダン大使。現在は外務省中東アフリカ局アフリカ部・国際協力局参事官、TICAD(アフリカ開発会議)担当大使、NGO担当大使を務める(写真:鈴木愛子、以下同)

國井:今日は前・南スーダン大使で現・TICAD(アフリカ開発会議)担当大使の紀谷昌彦さんにお越しいただきました。紀谷さんとはこれまで世界の様々な場所でお会いして、一緒に仕事もさせて頂いてます。

紀谷:最初はオタワ、次がコロンボ、それからブリュッセル、東京……。

國井:変わり者同士、類は友を呼ぶと言うか。

紀谷:自分では変わり者とは思っていないんですけど(笑)。

國井:いやいや(笑)、私は何かつながっていると思います。というわけで、初めにお会いしたのがカナダのオタワですよね。

紀谷:在米大使館の経済班の地球規模課題担当書記官として、開発と環境を担当していたときですね。2000年当時、21世紀の国際社会の目標である国連ミレニアム宣言が採択され、それを元にしたMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)について、グローバルに盛り上がっていた時代でした。その中心がニューヨークとワシントンDCで、私は2000年から2003年にワシントンDCにいました。

國井:私は2000年当時、東京の大学で教員をしてました。先進国首脳会議、いわゆるG8サミットが九州・沖縄で開催されて、議長国として日本が世界の感染症対策や保健医療対策に本腰をいれようということで、お誘いを受けてアドバイザー的立場で外務省で3年間働くことになりました。それにしても、2000年のG8九州・沖縄サミット、ある意味で世界の流れを作りましたね。

紀谷:インパクトありましたね。

國井:2000年の国連ミレニアムサミットでミレニアム開発目標、いわゆるMDGsが作られましたね。2015年までに達成すべき世界の開発目標の8つのゴールのうちの3つが保健医療に関連するものだった。子どもの死亡を1990年に比べて3分の1に減らそう。妊婦さんの死亡も4分の1に減らそう。そして、エイズと結核とマラリアの感染増加を減少に転じよう、と。

 しかしアフリカなどの現場を見てきた我々には、あんな目標を達成するのは正直無理だろうと映ってました。半分に減らすならある地域では何とかできるかも、でも3分の1にまで減らすのはあのアフリカの悲惨な状況、支援の少なさをみると無理かな……。特に、当時エイズの死者はうなぎのぼりに増えていましたから、あれを抑えるのはかなり難しい。一人当たり年間100万円以上ものエイズ治療薬を誰が負担できるのか。

 だからこそ、世界はこれをどうにかしようと必死だったんですね。様々な場所で会議が開かれて……。そんな中でのカナダ・オタワでのMDGs保健会合でしたね。私は日本から参加。

紀谷:私はワシントンから行きました。

國井:そこで出会って以来のお付き合い。紀谷さんのオタワでの印象は強烈でした。失礼ですが、保健医療の専門外にもかかわらず、あのオタワの数日間の議論で、もう見事にグローバルヘルスの現状と課題を整理して把握していた。紀谷さんがまとめたメモを見て、「こんなことをこの会合で議論していたの?」と出席していた私が驚くほど、本当によくまとまって、分析もされていた。

紀谷:人の口を借りてグローバルなトレンドを説明したという感じでしたかね。

國井:いや、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の議論であっても、それをきちんとまとめる力、整理力。その議論を基に、日本として何をすべきかも同時に分析して、それが非常に的を射ている。わずか数日間で専門的な議論にもついていけるようになって、明快に整理・分析して、日本のやるべき方向性とかを決められる。これはすごいなと。医療界にもそんな人、なかなかいないですよ……(苦笑)。