そんな中、特にアジアには多剤耐性結核の発生が高いインド(多剤耐性結核患者13万人以上)、中国(約7万人)、フィリピン(約3万人)、インドネシア(約2万人)などがあり、それらの国から多剤耐性菌が日本に持ち込まれる可能性もある。
実際に、日本で報告された多剤耐性結核患者の中には外国人が少なくなく、また日本国内で渡航歴がなく、健康に問題もなく、普通に生活していた若い日本人が多剤耐性結核に感染し発病した例もある。日本国内だから大丈夫、と安心できなくなってきているのである。
結核対策の国際目標達成のために
ではこのような状況に対して、国連総会ハイレベル会合ではどのようなことが取り上げられ、また政治宣言に盛り込まれたのだろうか。

先立つものは、やはり資金である。結核患者を検査するにも治療するにも、資金が必要である。
現在、結核対策として年間世界で約7000億円が費やされ、その8割以上は各国の政府予算、国内資金から捻出されている。外部資金、すなわち国際社会からの援助は1000億円程度で、うち3分の2はグローバルファンドによる支援である。
しかし、この資金レベルでは国際目標を達成するのは困難である。結核対策の国際目標とは、2015年から2030年までの間に、結核による罹患を80%減らし、死亡を90%減らすというものだが、その達成には現在のゆっくりした結核罹患の減少率、年平均マイナス2%をこれから年平均マイナス10%にもっていき、さらに2025年頃からはマイナス17%に加速化しなければならない。
今回の政治宣言では、この国際目標達成のため、2018年から5年間で、結核の発病者4000万人に診断と治療を届けることを目指し、そのためには年間130億ドル(約1兆4600億円)の資金が必要であると世界に呼びかけた。ちなみにこの額は日本の1年分の防衛費の3分の1未満。1か国の防衛費の3分の1の資金で、世界100国近くの5年分の結核死亡者を救える。決して多額で無駄な投資ではない。
またこの資金のすべてを国際社会の支援に頼るわけではない。低中所得国の自助努力による国内資金の増額も求められている。
ちなみに、この国際社会からの援助資金の確保は実質上グローバルファンドに期待されている。現在、世界100か国近い低・中所得国の結核対策に対して、グローバルファンドは世界の援助資金の3分の2を拠出している。そのため政治宣言では、グローバルファンドの「増資会合(Replenishment)」にも言及され、その成功が望まれている。
このグローバルファンドの増資会合とは、3年に一度、三大感染症の撲滅のための援助資金を調達するために開催されるもので、2013年はアメリカのオバマ大統領、2016年はカナダのトルドー首相が主催し、来年10月にはフランスのマクロン大統領によってフランスのリヨン市で開催される予定である。

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