武見:もう一つ、日本が提案して関係各国の説得に成功した仕組みがある。世銀には「インターナショナルデベロップメントアソシエーション」という最貧国のインフラ構築に必要な資金を提供する基金がある。エボラ出血熱のような保健医療の危機管理に使えることになったのでUHCにもどうかと考えた。しかし申請者は財務大臣で、橋や鉄道などではなく保健医療のためにこのおカネを使おうという動機付けはなかなか難しい。

 そこで世銀の別基金である母子保健を中心とした「グローバルファイナンスファシリティーズ」(GFF)に着目して、UHCにも広げた形でファイナンスできる仕組みを作ろうとした。GFFにアプライして採択された国は、IDA(International Development Asociation)にも申請できる。それによりGFFよりはるかに大きな財源を、有利子ではあるが極めて低金利で活用して国の保健医療に関する広範囲な政策に投入できる。

 これは財務、保健大臣が連携しないと、世銀のGFFにもIDAにも申請できない。両者の連携を必然的に強化する仕組みを作ったわけ。それによって将来のUHC設計をする際に各国で資源活用の政策決定ができるようにエンカレッジするシナリオを作った。うまくいきましたよー。

つなげるための3要素

國井:武見さんは関係者や関係機関をつなげる「フィクサー」ですね。財務省と保健省、世銀とWHO、バイ(二国間援助)とマルチ(多国間援助)、G7、G20、途上国などをつなぐメカニズムは、誰もが重要だと思いながらもなかなかうまく手を付けられない。それがいかに大変なことか……。

武見:つなげるためのポイントは3つあります。一つ目は自分のなかでコンセプトを明確にすること。そのアイデアフォーメーションができないとこの仕事はできない。二つ目は当事者同士を結びつけて同じ発想を持たせるようにするためのコミュニケーションチャンネルを国境を越えて持っているか。三つ目は先ほども申し上げた「おカネ」の提供にどう結び付けるかです。

國井:その3要素が揃わないと、カタリストの役割は果たせないんですね。

武見:はい、重要な役割なのに問題は誰も本気でやらないことです。昨年だって補正予算案時に入っていなかったの! 気が付いて官邸、自民の政務調査会事務局などと相談して「グローバルヘルスの財源確保のために必要な措置を講ずる」という文言を追加で入れた。それが大義名分となって、この秋の補正予算で予算が確保できたんです。皆が「誰かがやってくれる」と思っている。ここが日本の最大の弱点です。

國井:これだけ世界に貢献しているのに、残念なことに選挙の票にはつながらない……(笑)。

武見:あちこちで私、政策には強いのに選挙に弱いと言われていますよ(笑)。でも日本外交を重層的に強化する大きな役割を担ってきたと自負しています。ますます複雑化する多国間外交のなかで、共通課題を解決する能力を日本は蓄積する必要がある。保健医療は日本が国内で成功している分野なので、対外的にも説得力があるの。さらに一定の財源を協力して与えればルールメーカーを担うだけの条件が確実に備わっている。

 「ヒューマン・セキュリティ」という観点からみれば、有意義な人生を送るためには教育や職業訓練を受けたり、ビジネスチャンスに恵まれたりすることが大事です。しかしやはり健康を損ねるとあらゆる選択肢を失いかねない。保健医療は「ヒューマン・セキュリティ」の最も中核的な分野で、日本として重点的に貢献する考えは、歴代総理をはじめ超党派が協力して定着させてきた。あとは政策論として進化させる努力を常に誰かがやらないといけないんです。

國井:私もお招き頂きましたが、今年で5回目を迎えた「日経アジア感染症会議」では、日本の民、産、官、学、そしてメディアが沖縄に集まりました。オールジャパンでアジア、そして世界の感染症対策への支援をどう協力して進めていくかを継続的に議論していて、とても素晴らしい取り組みですね。具体的な戦略と戦術をもって前に進めるのが大切です。世界的なメカニズムとして、私が所属しているグローバルファンドのような官民連携の戦略的パートナーシップモデルもあるので、参考にして頂ければと思います。またこういった既存のモデルを使って、世界的に増加傾向にあるNCD(非感染性慢性疾患)などの保健医療課題にも取り組む必要があると思います。