大西:もうひとつは、シンクタンクの設立です。日本は残念ながらシンクタンク機能が弱い。例えば、我々がコミットしている国際紛争や武力紛争、大規模災害などに関して、ちゃんと研究できるシンクタンクを作りたいと思っています。日本では行政の委託による研究が多いけれど、本当に自分たちが課題だと思うことを、自由に使える資金でやれる仕組みを作りたいと思っています。

國井:特にアメリカとイギリスにはすごくいいシンクタンクが結構あって、様々なデータの分析や政策評価などを通じて彼らが作った試案がそのまま政策になったりしているからね。日本はなかなかそういう組織が少ないので、ぜひ。

大西:まっとうな政治家が出てきて、セカンドオピニオンを聞きたいと思った時、官僚の意見だけ、あるいは官僚の意に沿った意見だけでは困るでしょう。セカンドオピニオンが求められた時に、まっとうなB案が出てきて、まっとうなディベートができる状況は日本にとって好ましいと思うので。

國井:いいですね。ある政策や戦略を行政が作ろうとしても、そこに専門家が揃っているわけではないし、有識者を一時的に集めて意見を聞くだけでは本当の議論は深まらないし、実は効率が悪い。だから、アメリカなどでは専門化された外部組織をしっかり活用して、お金をきちんと付ける仕組みを作っている。

大西:リボルビングドア――いったん離れたポストに戻ることが普通に行われているのも日本と違うところですね。シンクタンクから国務省の次席になってまた戻るとか、それぞれ経験を重ねた人材がいろいろ回って厚みを増して、ネットワークを広げていくような仕組みが日本にはないじゃないですか。
 これは専門家が専門家であり続けるためにも有効な仕組みです。いったん立場が変わると自分のファミリーすら守れないような収入になってしまい、専門的な研究から離れるしかないとなったら、そこで貴重な専門家が消えてしまうわけで。

國井:欧米では市民組織やプライベートセクターの役割も大きいよね。特にアメリカにはビル&メリンダ・ゲイツ財団など、シンクタンクに多額の資金を提供する団体も少なくないけど、日本の場合、お金の出所は政府で、政府系のシンクタンク以外は、なかなか回っていかないし、その役割や能力がなかなか高まっていかない。そこをどうやって変えていくか。

大西:例えば、シンクタンク自体が、シンクタンクのためのファンドレイジングを日本できれいに編み出したら“自活エンジン”を積むことになる。

國井:プロ集団とお金が直接つながる。

大西:そうです。例えば1億円あったら、シンクタンクとして1人1000万円で10人、いやオフィスのランニングコストなどが2000万円としても、8人は雇えるわけじゃないですか。国際水準からしたら平均1000万円はちょっと低いけど、選択肢として30代だったら考えると思うし。

國井:以前、NGOの運営に関わっていた頃は、寄付を募って数百万円集まったらすごいという時代だったので、億単位の話は新鮮(苦笑)。最近は個人の寄付も増えているみたいですね。

大西:現在は8000億円規模になっていますね。

國井:隔世の感がある。

大西:とはいえ、アメリカでは25兆円規模の個人寄付がありますから、日本とアメリカのGDPを比べた場合には、日本は8兆~10兆円あっておかしくない。

國井:そうすれば変わるのか。制度は重要ですね。

大西:そうだと思うんですよ。制度次第だと。ふるさと納税を見ていたってそう思います。アメリカでも控除制度があるから、集まるところにはどんどん集まっている。そうした制度さえ整えていけば、世界標準に比肩し得るようなところがどんどん出てくるはずです。
 我々も、クレジットカードのネット決済で寄付してもらえる制度が東日本大震災をきっかけにできてから寄付の金額が増えて、去年時点で全体の収入が43億円あったんです。今年は50億円ぐらいになります。
 もちろん、放っておいてもお金が集まるということではなくて、我々が常に新しいことにチャレンジして、寄付に値する組織であることを示していくことが大前提ですが、オリンピックが終わる頃には100億円規模になると見込んでいます。それでも世界的に見たらようやく真ん中ぐらいの規模でしょうか。

國井:そうですね。

大西:そこでようやくプレーヤーとして世界のフィールドに立てるかなという気がしています。

 もうひとつ、資金的なブレークスルーになるカギが遺贈です。これはお金のみならず、遺志ですよね。相続に関しては統計があやふやなところがあるので推計ですが、だいたい40兆円から60兆円の間と言われていて。

國井:すごい額だね。

「共感の投資」が質の高い成長を生む

大西:とりあえず50兆円として、そのうちの10%が社会に、いいことに使ってほしいと「共感の投資」として還元されたとしたら、それだけで5兆円です。そうすると、先ほどの目標8兆~10兆円の約半分が担保されるわけです。これはすごい。これが流れ出したらシビックベンチャーであるとか、ソーシャルイノベーションとかソーシャルビジネスといわれる分野は急激に伸びる可能性がある。

國井:そうして規模が大きくなると、それを支える人材が必要になりますね。長年、企業で頑張ってきて、リタイアした人たちが活躍するチャンスでもあると思うんだけど。

大西:まさにその通りで、さっきのフローが実現して10兆円規模になっていくとしたら何が足りないかと言えば、圧倒的に人材です。そして日本の人口形態でどこに人がいるかと言えば、60歳以上。そこから経験も含めてマンパワーをいただかないと、膨張についていけません。
 ちなみに、うちはすでに定年退職70歳にしましたので、60歳以降、10年働いていただけます。例えば、これから財務をさらに強化していかなきゃならない中で、銀行を相手にしていくには、銀行OBが一番頼りになるんじゃないかと思っております(笑)。

國井:手の内が分かっているからね(笑)。でもそうやって、人も組織も活性化していったら、日本も元気になりそうだね。

大西:元気になります。日本のコンビニの総売り上げがざっくり10兆円です。それに相当する規模で、それも真水の10兆円がフローしたら、しかも共感をもって社会のよいことのために使ってくれというお金がフローし出したら、強烈なパワーになります。
 そうして巨大な「共感産業」が動き出して、さまざまな面でレバレッジが利くと、20兆円、30兆円、40兆円になっていく。日本の医療業界の市場規模は40兆円ですから、それに比肩し得るようなものに育っていく可能性がある。
 そこで地方が潤っていく仕組みを作りたいんです。もちろん都市部も潤いますが、地方の就業人口を増やし、なおかつプロフェッショナリティーを上げつつ、世の中もよくしていくという事業を。
 そこから本当の、質の高い成長が始まるんです。単に所得が上がって万歳というんじゃなくて、社会の質が上がるんです。自分の目が黒いうちに何とか軌道に乗せたいですね。

國井:せっかくなら僕の目が黒いうちに。何らかの形で協力していきたいですから。NGOシンパのひとりとして、大西さんのシンパとして。

大西:鋭意努力して参りますので、なるべく長生きしていただいて(笑)。

國井:鋭意努力して参ります(笑)。

於:Basis Point新橋店