國井:大西さんのそうした豊富なアイデアはどこから来るんだろう。

大西:いろいろな人が恵んでくれるんです(笑)。

國井:たとえアイデアがあっても、それを実行に移す人、また移せる人は少ないし、やろうとすることが大きく、また膨大かつ多様なリソースが必要になれば一人ではできないから、人を惹き付けて動かす力もないといけない。どうして大西さんにはそんなことができるの?

大西:あそこが約束の地カナンだ、絶対に大丈夫だ、神様が応援してくれるからと、どんなひどい状況でも言い続けるアホだからでしょうか。僕、神様は信じていませんけど、神様が応援してくれていると言い続けることはできますから(笑)。大事なのは、ずっと逃げ出さずに言い続けることくらいですかね。

國井:大西さんはさ、どこまで本気か分からないような物言いをして煙にまこうとするけど、とんでもない信念がなきゃできないことだよね。それとこの頼りがいのある体型と、一見怖そうなのに笑うと可愛い顔になるというのも人を惹き付ける武器かな(笑)。

大西:太ったシェフの方が料理がうまそうに見えるという感じですか(笑)。でも、この業界では太っていると、お前、難民の飯を食っているんじゃないかとか言われるから…(笑)。

國井:またそんなことを。まったく偽悪家だね(笑)。

動物たちも置き去りにしない

國井:動物保護の活動についても聞かせてもらえますか。

大西:僕らが保護活動を始めた広島県は、かつて犬と猫の殺処分数が日本で一番多かったんです。無責任な飼い主が捨ててしまったり、あるいはそうやって野良となった犬同士が交配して生まれた犬が捕獲されると、殺処分のための部屋に入れられます。床は消毒液でぬれた冷たいコンクリートで、ジュラルミン製の壁が動いて、ガス室に送られていきます。

國井:ガス室…。

大西:二酸化炭素で殺処分するのですが、現場を見に行った時、ガス室の壁に、もがいた子犬の血だらけの生爪が引っ掛かっていて…。ガス室の下はぱかっと開くようになっていて、そのまま火葬です。生き物の命がこうして機械的に失われていく。これが先進国である日本で現実に行われているのだと知って絶句しました。僕らが保護活動を本格的に始める前々年の統計で8340頭ぐらい殺処分されていたんです。
 紛争地域と比べれば、日本は命を守りやすい場所だと思いがちだけど、収容された犬や猫が生還する確率はかのアウシュビッツよりも低かった。現実を知って、見なかったことにはできません。置き去りにするわけにはいかない。

國井:僕は今、スイスに住んでいるんだけれども、犬は家族同様に扱われていて、バスなどに犬を連れて乗るのはもちろんOKだけど、子供同様、半額を支払うんだよね。それに、犬を飼うには人間のしつけも必要だということで、責任をもって飼うための飼い主のトレーニング、ワクチン接種や検診のための担当の獣医を決めて、チップを入れて登録もする…。驚きました。

大西:犬や猫を飼うことに関して、スイスはたぶん最も完成形に近いシステムを持っていますよね。僕らはドイツのやり方を導入しているんですが、ここもかなり高いレベルに達しています。
 「日本とドイツは違うし、先進的なドイツのやり方をいきなり真似られるわけがない」なんて言われるんですけど、どちらも第二次大戦の敗戦国で、どちらも命の重さということをいろいろ考えてやってきたはずなのに、70年の間にこれだけ差が開いたというのは日本の努力不足じゃないかと思うし、このままでいいとも思いません。

國井:僕は日本の週刊誌とかあまり読まないので知らなかったんだけど、最近、週刊誌で不妊措置をしないのはけしからんというバッシング報道があったと。

大西:ヨーロッパでもしてないところがたくさんあるのは國井さんもご承知だと思います。僕らのところでは施設の中できちんと管理できていて、間違って妊娠するというケースはほぼない。なおかつ、手術のメリット、デメリットは日本の獣医師でも意見が分かれていて、海外に行くともっと複雑に、やるべきだ、やるべきじゃないという両論が戦わされている。そして、保護している犬は、犬種も違うし、性別も違うし、年齢も違うし、保護に至るまでの背景も違う。これからもらわれていくオーナーの環境も違う。そんな中で、一律に避妊、去勢をするべき、それ以外はけしからんというのはどうなのか。絶対やれというのも、絶対やるなというのも、いずれも乱暴だと思うんです。
 だから、犬の性格や飼育環境などに応じて、引き渡しをする時に不妊治療のリコメンデーションは出すけれども、オーナーの意向を尊重しながら、相談があればそれに乗って決めていくという話なんです。我々は追跡調査もしていて、里親さんの98%が回答をくれている最新(6月末報告時点)アンケートでも、うち98%が繁殖しておらず、野放図に繁殖してしまうような事態は起きていません。
 我々のところにわざわざ犬をもらいに来てくれる方々は実際、スイスやドイツの飼い主に近い感覚を持っていらっしゃって、うちで犬と一緒にトレーニングを受けてくれる人もたくさんいます。
 かつての日本のシェルターでは、例えば3段積みのケージに保護した犬を入れて、フンが下の段に漏れてしまっていたとか、保護して繁殖を抑えるはずが管理できずに3倍になってしまったとか、そういうことがあったそうですが、うちの場合は幸いにしてたくさんの人に支援いただきながら、問題なく運営できています。

國井:なるほど。保護された犬を一括りに考えず、それぞれに合った生き方を考えてあげるということね。我々も人間を強制的に去勢すれば人権の侵害になるし、難民なども一括りにせず、被災した人の立場に立った人間中心のアプローチ(People centered approach)を大切にしようという動きもあるから、犬の権利、犬の立場にたったアプローチ(Dog centered approach)っていう考えも大切ですね。

大西:動物にひどいことをやっている、その生き方とか命を軽んじる社会は、人間に対してもそうしたことをやってしまうんじゃないですかね。僕らはセラピードッグを連れて老人ホームなどに慰問に行っていますが、年に1回も身寄りの面会がない人たちがたくさんいます。ボケてしまってわからないというのではなく、本人もまだまだお元気で、ご家族はいるけれど、誰も面会にいらっしゃらない。それぞれの事情があるにしろ、社会の歪みというのは弱いもののところに表れてくるのだろうと思います。動物が一番弱いのかもしれないけれど、いわゆる弱い人間にも、その歪みは表れている。

國井:弱いものに歪みを押し付けて、置き去りにする。そこを変えて行かないといけない。

大西:僕らが最初に保護した犬は、その後、どうなったと思います?

國井:もらわれた先で幸せに暮らしていることを願うけど…。

大西:訓練を受けて、サーチ&レスキュードッグになったんです。現場で立派に遭難者を見つけて活躍して。人間に殺されかけた犬が、保護される存在から、人間を助ける存在になったんです。
 もちろん、すべての犬がレスキュードッグになれるわけではないけれど、そういう可能性もあるんだということが、僕らには実感としてあるんです。
 そして、その犬が活躍してくれることで、我々のサーチ&レスキューの活動を大いに喧伝してくれて、さらにそこにリソースが集まって、より強いサーチ&レスキューチームになっている。
 こうしておけばいい、じゃなくて、こんなこともできる、と考えて、いままでやられていなかったことにチャレンジしていく。そうした先にこそ、相乗効果というやつも生まれてくる。