一緒に考え、解決する「栃木方式」で

國井:分けるのではなく、一緒に過ごすことで互いに理解を深めていく。

今井:そう。それは健常者の方が何でも先回りして、何でもやってあげる、というのとも違うんです。
 障がい者の方も、もっと自分のことをしっかり周囲に伝えていけるようにならないと。自分はこういう障がいを持っていて、コミュニケーションはこのような方法を使います、といったことを堂々と言える環境を整えることが大事になる。

國井:障がい者の側が壁をつくってしまうのもいけない。

今井:障がい者の教育において、もちろん国語、算数などの勉強は大事なのですが、自分の障がいについて、しっかり理解する勉強もまた重要だと思うんです。現状、そこが足りないなら、変えていかないといけないと思っています。
 「障がい者」と一括りにされる存在ではなく、皆それぞれのアイデンティティーがある。障がいもその人の個性のひとつなのだから、その特徴を自分で理解して、説明できるようにしなきゃ。

國井:障がいとはちょっと違うんだけど、昔、栃木県にある病院で仕事をしていた時のことを思い出しました。
 当時、外国人労働者がどわっと日本に入ってきた時期で、バングラディシュやらイランやらいろいろな国から来た人が、いわゆるきつい、汚い、危険の「3Kビジネス」に就いていて。彼らが病気になったり、怪我をした時、言葉が分からないために、私が当時勤務していた病院などで十分な対応ができないという事態になったんです。

今井:どう対応したんですか?

國井:NGOを作って外国人の医療問題の相談に乗るための「インターナショナル・ライフライン」を作ったんです。最初は、病気や怪我をした人の国の言葉が分かる人に病院に来てもらって通訳してもらい、来るのが難しいケースでは、携帯電話で言葉の分かる人とつないで通訳してもらって。携帯電話といっても、今みたいに薄くて小さいのを皆が持っている時代じゃなくて、大きなお弁当箱を肩にかけて運ぶようなやつでね(苦笑)。
 そうこうしているうちに、皆で対訳表を作ろうということになって。色々な言語で、診察に必要な用語を訳した表を作って、それを病院やら関係機関に配って、現場ではそれぞれの項目を指さしながら対話しながら医療問題やその検査・治療を確認していく。
 そうしたら、色々な国の人が、患者だった人も含めて、ボランティアに参加してくれて、僕の国のを作るよ、といって対訳表が増えていって。日本人も自分に何ができるかわからないけど、付き添いでも、介助でも、できることやらせて、ってボランティアが増えていってね。
 最初は、彼らは「外国から来て、病気になると助けてもらえない可哀そうな人たち」で、自分たちは「何とか助けたいけど、やり方が分からなくて困っている人たち」だったけれど、一緒に何とかしようとやってみたら、どんどん輪が広がっていって、お互い学び合いながら、成長していくんです。
 これって、さっきの今井さんの話とも通じるんじゃないかな。

今井:一緒に解決していく。まさに通じますね。

 私は障がい者への「情報保障」についても改善したいと思っています。日本では、特に災害時、命に関わる情報がすごく少ない。
 東日本大震災の時も、視覚や聴覚に障がいのある人に必要な情報が届かず、被害に遭われたケースがありました。その後も熊本などで大きな地震が起き、首都圏でも直下型地震が想定される中で、災害対策のひとつとして障がい者への情報保障というものをしっかり確立させていかなければいけません。

國井:まさに国全体の課題として考えて行かなければいけない。

今井:そのためには、障がいというものを「一括りにしない」ことが重要です。
 聴覚障害、視覚障害、発達障害…例えば、発達障害にもいろいろなケースがあって、一つ一つの障がいによって支援の仕方、教育の方法も違うはずで、「いわゆる障がい者支援は…」と一括りにしていては、現実に対応できません。
 これから関連する勉強会を立ち上げて、様々な人に参加してもらいたいと思っています。解決する側の人が、困っている人を助けてあげるというのではなくて、当事者の人たちにもどんどん参加してもらいたい。専門的に取り組んでいる団体の人も、そういう組織に参加していない人も加わってもらって、それぞれの視点から課題を見つけていって、皆が当事者になって、違いを越えて一緒に解決していく。

國井:栃木方式で(笑)。

今井:はい、頑張ります(笑)。

「手話」も言語。みんなのものに

國井:そのほかにも、いろいろ関心をお持ちだと思いますが、例えば…。

今井:手話について、そのあり方をしっかり整理したいなと思っています。

國井:今井さんご自身も以前、NHK「みんなの手話」の司会をやっていたよね。

今井:今は手話が広く認められていますが、歴史的に見ると、かつては、なるべく手話は使わないようにと教えられている時代もあったんです。例えば、残された聴力がある人は補聴器を活用して健常者と同じようにしゃべりましょう、という訓練がなされていて、手話を使わないように手を縛って口で話すように教えていたなどという話もあって。

國井:手話もコミュニケーションツールの一つだから、禁止するというのは違和感があるけど…。

今井:読み書き話す「言語」というものがまずあって、手話というのは、それとは別の特殊な手段という考え方だったわけですね。
 それが「障害者権利条約」に「『言語』には、手話その他の形態の非音声言語も含む」などの条文が盛り込まれて、日本もそれを2014年に批准して、多くの自治体で手話言語条例を定めるようになっています。多くの人に広く手話を理解してもらう、また公共施設の窓口に手話通訳士を配置するというようなことが広まっていこうとしています。

國井:さきほどの情報保障という観点からも、良い変化ですね。

今井:でも、まだ課題はたくさんあります。まず手話には2種類あって…。

國井:え、勉強不足ですみませんが、日本国内でも2種類あるんですか?

今井:日本手話と日本語対応手話というのがありまして、一つ一つの手の動きは一緒なんですが、文法が違うんです。ざっくりいうと日本手話は英語的で、日本語対応手話は日本語的。

國井:日本人には日本語の語順に合っている方が使いやすそうだけど…。

今井:ろうの方の場合は、まず映像なんです。文法的に言葉を重ねるのではなく、見える映像を基に言葉を重ねていく。すると日本手話の方がしっくりくる。一方、いったん日本語で伝えたいことを組み立てる人が、それを手話で伝えようとすると、しっくりこない。

國井:そういうことも一般の人はなかなか知る機会がない。

今井:今、ドイツやスウェーデン、オーストラリアなど海外の事例なども勉強しているんですが、国として、法体系の中で手話というものの位置づけを明確にしていきたい。人々の生活の中で手話が「普通のこと」として根づくようにしていきたいと思っています。