日本でも政府や地方自治体が、災害時における応急給水として、地震発生から3日以内の目標水量を3 L/人・日、市民の水の運搬距離は1km以内、また仮設トイレの設置基準として、初動対応(0~10日間)で250人/基、後続対応(11日目以降)で100人/基などのように基準を決めている。しかし、私の知る範囲では、スフィア基準のように被災者・避難者が受けるべきサービスの量と質の最低基準を包括的に明記し、そのアカウンタビリティの所在を示している文書は存在しない。

 日本の災害支援のスピードと質を向上させるためにも、スフィア基準のような緊急支援における最低基準、それを測る指標とそのモニタリング・評価、報告・説明責任などについて真剣に検討し、明示すべき時だと思う。

「スフィア基準」を超える日本基準を

 ただし、途上国と日本とで状況が異なるので、スフィア基準を参考にするのはよいが、そのまま日本に当てはめることには賛成しない。世界が未だ経験していない超高齢化社会、そのほか日本の平時の課題が、災害時にはより鮮明に浮き彫りにされる。これらの課題を考慮しながら、スフィアとは違った意味で世界のモデルになるような基準・方針づくりを日本には期待したい。

 一方、日本には管轄する省庁が策定した「地震対策マニュアル策定指針」などがあり、これを基に地方自治体、事業体等が「地震対策マニュアル」「避難所運営マニュアル」などを作成している。私見ではあるが、これらは行政・サービス提供者側の視点で書かれており、被災者・避難者の視点、民間支援の観点が足りない気がする。

 実は世界で人道援助を行ってきた我々も、ともすると「支援者側」(supply side)の論理・視点でこれまで援助を進めてきており、「支援を必要としている人々」(demand side)の視点が足りなかったのではないかと反省している。弱者の声は小さく、困窮し辺縁に追いやられた人々の声は届かないものだ。彼らが何を求め、どのようなニーズを持ち、それをどのように満たせばよいのか、人々の声を聴き、彼らの立場・視点で計画・実施しないと、最終的に人々が求める満足のいく支援ができないことがある。これらはわかっているようで、実際に計画や実施をする際に忘れられがちである。

 近年、災害や紛争・内戦により様々な地域・国に大量の避難民が流出している。受け入れ国政府は国境を超えてきた避難民に頭を抱え、様々な政治問題に発展することもあるのだが、人道支援の立場からは被災者・避難民を中心においた「People-centered approach」が重要視されている。人々がどこを経由してどのように移動し、どこに行きつくのか、それぞれの時点でどのようなニーズがどれだけあるのか、などを把握・分析しながら、「支援を必要としている人々」を中心に支援を行うものである。私が所属するグローバルファンドでも最近、緊急支援を様々な国で展開しているが、シリア難民ではこのアプローチを導入して支援を行っている。

 日本においても、被災者は指定避難所だけでなく、初期には行政が把握できない場所で集団避難をしたり、自宅や車中で避難したり、それぞれに状況やニーズは異なる。被災者を中心に据えた、被災者側の視点や立場での災害対策とは何か、議論を進めてもらいたい。

 また民間や個人の支援が活発化している今日、行政だけで支援を完結しようと思わず、積極的に民間のパワーを災害対策に取り込む必要がある。日本の市民社会、NGOは近年、国内外で災害支援の経験・実績を積んでおり、今後の災害対策では大いに活躍できる。官民連携は理屈でなく、より高い効率と効果をもたらすための実践が求められている。

 今後の日本の災害対策にさらなる努力と準備が必要と思われる点についての私見を、次回に述べたい。

(次回に続く)