この時の教訓を踏まえて、将来の災害によって失われる命、損なわれる健康を最小限に抑えるため、栄養、水・衛生、感染症、衛生害虫対策、口腔衛生、母子保健、高齢者対策、福祉、心のケア、自殺予防対策、ロジスティクスなどの経験豊かな専門家・支援者たちと一緒にわかりやすいテキストを作成した(南山堂「災害時の公衆衛生ー私たちにできること」)。すぐにコピーして使えるチェックリストや質問票も作り、実践的な知識・情報を盛り込んで、過去の教訓が将来の災害対策に活かされるよう願っていた。

熊本で生かされなかった教訓

 はたして、今回の熊本地震ではこれらの教訓は活かされたのだろうか。本の執筆者や東日本大震災で一緒に活動した友人・知人が熊本の被災地で支援活動をし、以下のような状況を伝えてきた。

  • 避難所のアセスメントができていない
  • 避難所は仕切りがなく、1人1畳程度の生活スペースしかない
  • 床に毛布を敷いただけの上に寝ている、そのため腰痛や背部痛を訴える人が多い
  • 避難所は被災者が寝起きするすぐそばまで土足可となっていて、不衛生で清掃されていない
  • 通路の埃やごみが舞って避難者に直接かかる、それらを吸いこんでいる可能性も高い
  • ペットと一緒に避難している人への対応ができず、衛生面が保持できていない
  • 2週間過ぎても食事はパンやご飯が中心で、おかずが少ない
  • 支援物資が集まっていながらロジがうまく機能せず、避難所への配給が遅れている
  • 支援物資が余っている避難所と不足する避難所が共存するミスマッチが起こっている
  • コーディネートする人がいないため、避難所でのルールが守られていない
  • 情報が不足し、また異なった情報が行き来していて、避難者に不安や混乱が生じている
  • 余震があったらすぐ避難できるように避難所でも駐車場で車中泊する人が多く、静脈血栓塞栓症(通称、エコノミークラス症候群)が発生し、また懸念される
  • 高齢者、女性、妊産婦、子どもへのケアや配慮が不十分
  • 災害対策本部と分散配置されている市の職員との情報共有や連携が不十分
  • 避難所での指揮命令系統が明確でない
  • 東日本大震災の教訓は十分活かされていない
    • などなど。

       これらは主に発災後1~3週間ほどの情報で、2か月を過ぎた現在では状況は改善されているという。しかし、これらの情報を知った時点では、なんとも愕然としてしまった。