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続く見えない敵との戦い

 社会変革には、徹底した現状分析と目的・目標の設定、そこに行きつくまでの道筋とそのための戦略・戦術・行動計画が必要だ。現状分析のためにどのようなデータや情報を集めるか、分析するか、それを基にどのようなアプローチを選択するか、効果的な戦略・戦術・行動計画を作るに際してどのような好事例・教訓があるか、いかなる技術支援が必要か、対策プログラム実施のためにいかなる人材・情報・技術・物資が必要で、そのためにどれほどの予算が必要か、など具体的な問いかけと答えを準備しなければならない。

 たとえばグローバルファンドでは、HIVなどの感染の脅威にさらされながら、また既に感染してしまった後に、サービスを受けられないLGBT、またキーポピュレーションの数が全く把握されていない国が多いため、そのデータや情報を積極的に収集・分析する、LGBTに対する差別的な法律・制度の撤廃・改定のための介入を行う、LGBTが必要とする感染症予防・治療サービスを支援する市民団体を技術的・資金的に支援する、東欧・アフリカ・アジア・ラテンアメリカなどの地域ごとに感染予防のためのLGBTのネットワークづくりや連携・協力体制の強化を支援する、政府とLGBTの市民組織との対話を促進し、グローバルファンドの援助から自立した後も政府が市民団体を通じてLGBTへの支援が継続するよう働きかける、など様々な支援を行っている。

 これらを通じて、過去15年間で多くの変化があった。

 これまで完全にLGBTに対して差別・迫害、または無視していた政府が、その支援プログラムに協力するようになった。LGBT自体が対策プログラムの計画・実施に参加し、一般市民からの理解や認知も向上した。これらによって、過去にはサービスが行き渡らなかったLGBTの間で爆発的に流行していたHIVの感染率が近年、多くの国で急減してきた。

 しかしながら、多くの国でセクシュアル・マイノリティーに対する差別・偏見は未だに止まない。サービスが行き届かず、LGBTの間で新たな感染が拡大している国もある。

 偏見・差別は我々の心の奥底に宿っている。無知と無視という見えないベールに包まれて。

 この見えない敵との戦いは、これからも続く。