全13914文字

 LGBTの用語や概念はもともと西欧由来であり、この2Sのように、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの伝統社会では、それぞれの地域に特有の社会的な位置づけやアイデンティティをもつ人々もいる。

 たとえば、インドなどの南アジア地域に広く存在する「ヒジュラー」と呼ばれる人々は、伝統社会ではカーストの中に位置づけられており、一方で差別や偏見の対象となりつつも、他方で聖者として社会的に尊敬や信仰の対象となってきた。

 私も以前、インドに住んでいた頃、女装した「ヒジュラー」によく出会ったが、彼らはヒンドゥー教寺院で宗教儀礼に従事し、一般家庭で子どもが生まれた時に誕生の祝福をして、社会の中で相応の役割を果たしていたのを覚えている。また、インド社会には「ヒジュラー」以外にも、カーストに分類されない性的少数者の様々なアイデンティティが存在していた。 

 フィリピンでは、トランスジェンダー女性(MtF)や、いわゆる「男らしさ」にはまらない男性の一部を含めて、「バクラ」(Bakla)というカテゴリーがあり、地方の小中学校の生徒の名簿の性別が「男、女、バクラ」の3つに分類されているところもある。

 逆にタイでは、「女らしさ」にはまらない女性やトランスジェンダー男性(FtM)などの一部を含む「トムボイ」というカテゴリーがある。

 以上のように、「性」は多様で、LGBTの4文字だけではその多様性を表現できないことは理解できる。かといって、LGBTQQIA……と長い用語を連ねるのは現実的ではなく、今後さらに新しいアイデンティティで用語がどんどん長くなる可能性すらあり、実際にこれらの長い用語は日常的に使われていない。

 現在、やはり一般的に用いられているのは、限界を認識しつつも「LGBT」であり、LGBTの人以外を強調する場合は“+”を加えて「LGBT+」、より正確性を期する場合はインターセックスとQuestioningを加えて「LGBTIQ」を使うこともある。

 また、法律や制度などを作るためには、LGBTといった少数派に分類される側を列挙するだけでは包括的でないので、国際的には、これらの分類のおおもとにある概念を列挙した方が適切という立場から、Sexual Orientation(性的指向)、Gender Identity(性自認)の頭文字をとった「SOGI」(「ソージ」と発音)、また、それをどう表現するかを示すExpression (性表現)を加えて「SOGIE」(「ソージー」と発音)、さらに、インターセックスに対応する形で、性の身体的特徴に関する概念である「Sex Characters (性的特徴)」の頭文字を加えて「SOGIESC」(「ソジエスク」と発音)という用語が使われることもある。

LGBTはどれほど「少ない」か

 ちなみに、私の機関ではSOGIの用語を用いている。

 ところで、LGBTは性的少数派とも呼ばれるが、どれほど「少ない」のだろうか、との疑問がある。

 例えば、「好きになる指向」としての同性愛だけをとっても、古来よりギリシャ、ローマ、エジプト、インド、マヤなどで広く認知され、中国の明清時代には男性間同性愛は多く巷に拡がり、女性間の性行為も文学作品に描写されている。

 日本でも、男性同士の性行為、いわゆる「男色」は古来より記録があり、近世までは当たり前のように存在し、場所や状況によっては公然と行われていたという。

 また、生まれながらにして男性か女性か判断がつきにくいインターセックスは、調査によると世界中で平均1500人に1人くらいの割合でみられ、思春期や結婚後などに染色体診断などで判明する例を含めると500人に1人は存在するとも考えられている。

 様々な国でLGBTに関する調査がなされているが、その人口割合は2-10%という結果が多いようで、推定でアメリカには1100万人、南アフリカには490万人のLGBTが住んでいるともいわれている。決して「少数」とは呼べない数字だ。

 日本のLGBTの推計は2015年の電通ダイバーシティ・ラボの調査が有名だが、その結果は「身体の性」「心の性」「好きになる性」の少なくともひとつが多数派(ストレート)とは異なる人々が7.6%、13人に1人の割合で、単純計算すれば、日本に推定900万人以上のLGBTに属する人々がいるという推計を示した。

 この人口割合は、左利きの人やAB型の人の割合とほぼ同じで、日本の6大苗字と言われる佐藤・鈴木・高橋・田中・伊藤・渡辺さんを合わせた数より多いという事実は、結構多くの人々を驚かせるのではないだろうか。LGBTを差別するというのは、これらの人々を差別するのと同じ、またそれ以上だと考えると、家族や親戚、親友で多くの人々の顔が思い浮かぶ。LGBTは、日本では決して少数とはいえないようだ。

 そもそも電通がこの調査を行ったのは、多様な個人へ目線を拡大し、少数者に理解・支持することで、企業が新たな社会価値を創出していけるか、事業成長を促進していけるかというマーケティングが背景にあったようだが、この調査によってLGBT層の商品・サービス市場規模は5.94兆円とかなりの規模で、決して「生産性がない」人口層ではないことも明らかになっていた。

 LGBTのムーブメントは、彼らが同性婚や反差別などを訴える社会運動の場としてのプライド・パレード(マーチ、フェスティバルなど)と呼ばれるイベントの開催とその参加人数を見る限りでは、世界でも日本でも広がっているように見える。

例えば、2006年に開催された「サンパウロ・ゲイ・プライドパレード」には推計250万人が参加し、当時世界最大のプライド・パレードとしてギネス世界記録に認定され、2009年には更に多い320万人が参加している。

 日本でも、北海道から沖縄まで様々な街でプライド・パレードが開催されてきたが、特に東京で開催されるレインボープライドのパレード&フェスタには約5000人がパレードに参加し、会場への来場者は10万人を超えている。