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氷山の一角にすぎない一橋大学事件

 LGBTの知人の多くは、人生のある時期から自らの「性」について悩みはじめ、誰にも打ち明けられず、または打ち明けた後にも様々な問題を抱え、苦しんでいる。

 ある女性は、数人の男性と付き合ったが全く満足感を得られず、いつしか本当に好きなのは女性であることをはっきり自覚した。ある時、好きになった女性に勇気を出してカミングアウトしたところ、返事もなく、交友関係を避けられるようになった。さらに、その噂が他の友人にも広まることになる。それ以降、女性を好きになっても恐くて打ち明けることができない、男性には全く興味をもてない、自分は異常なのでは、と悩み続ける日々を過ごしていた。

 またある知人は、生物学的には男性だが、女性になりたいとの願望が強かった。初めは隠れて女装していたが、どうしても人前で堂々と女性として振舞いたい、美しく着飾りたいと思ってそれを実行した。ありのままの自分でいたいと、職場でもそれを実行したところ、上司から咎められ、最終的に会社を辞めさせられた。

 ある男性は高校生の時に同じクラスの男の子を好きになった。胸にしまっておくのが苦痛で本人に打ち明けたところ、周りに言いふらされた。噂は広まり、学校でいじめを受け、最終的に登校拒否、そして自殺を図った。

 LGBTのこのような悩みを全く理解できない、という人は、2007年にNHK紅白歌合戦に出場した中村中(あたる)さんの「友達の詩」を聞いて欲しい。

 中村さん自身が男性でありながら同性を好きになり、好きになった人と「手をつなぐ」、たったそれだけのこともできない悩み、苦しみを歌にしている。LGBTの人々が抱える悩みを、頭や理屈でなく、心や感性で感じることのできる素敵な歌である。

 一橋大学の事件は氷山の一角にすぎない。

 ある国の調査ではLGBTの若者の9割が学校でいじめや差別を受け、日本の調査ではゲイ・バイセクシュアル男性の65%が自殺を考えたことがあり、15%が自殺未遂をしているという結果がある。

 LGBTの人々はそれを肌で感じている。自殺したり行方不明になったりする仲間が身近にも多いからである。

 偏見・差別だけでなく、「ホモフォビア(Homophobia)」「トランスフォビア(Transphobia)」と呼ばれる、LGBTへの明らかな「嫌悪」を持つ人々がおり、「ヘイトクライム(Hate crime)」と呼ばれる、LGBTへの暴行・殺害が絶えない。これらは世界中で実際に発生していることだが、特にブラジルでは1980~2006年の間に2500人以上のLGBTが殺害され、その数は2017年には2016年に比べ30%増え、380人に達したという。LGBTという理由だけで殺されてしまうのである。