目標やターゲット、指標を設定する際に考慮すべき項目として、以前の寄稿「“人類の敵”と戦う『最強の国際機関』の作り方」でも述べたが「SMART」がある。ターゲットや指標がSpecific(明確)か、Measurable(測定可能)か、Achievable(達成可能)か、Realistic(現実的)か、Time-bound(期限付き)か、検討しながら設定するのである。

 私もこれまで様々な世界や国の目標・ターゲット作りに関わり、実際にSMARTを使ってきた。しかしながら、実のところ、SMARTをもってしても理屈通りに目標・ターゲットを設定することはそう簡単ではない。

「野心的」だが「現実的」なターゲットを模索

 まず、目指したいと思うものが必ずしも測定可能ではないのだ。サービスの質的向上、能力の強化、不平等の是正、人権の擁護など、数値で表しにくいものが多々ある。これには知恵を絞って、測定可能な、できるだけインプットやアウトプットでなく、最終的に変革したいインパクトレベルの指標やターゲットを探すしかない。世界の共通目標として国際社会から同意を得て、その進捗状況をモニタリングしていくには、目標は単純で明快な方がよい、というのがMDGsから学んだ教訓でもある。

 次に、測定可能な指標を選んだとしても、国によってデータが不足している、またはその信頼性が低いことがある。たとえば、感染症の指標として、明確で測定可能な「結核の年間新規感染者数」を指標にしても、検査機器や人材が少ないために診断できていない、また国にデータがきちんと報告されていなければ、データの信頼性は低く、ターゲット設定は難しくなる。このような場合には、ベースライン調査などを行ってより信頼性の高いデータを収集する、国のデータ収集・分析・活用を含む情報管理体制を強化するなどの努力が必要となる。

 さらに、明確で測定可能な指標を選び、そのデータの信頼性も高いことがわかっていても、将来のターゲットをどのレベルに設定するかは意見が大きく分かれることが多い。過去のトレンドを見て「達成可能」なレベルに設定するのは簡単だが、それではAmbitious(野心的)とはいえず、目標・ターゲットとは呼べない。逆に、いくら努力しても達成不可能なレベルに設定するのも問題である。過去のデータの分析や将来予測を含めた専門家の意見、市民社会などによるアドボカシー(施策提言や権利擁護)、政治的判断などを鑑みながら、時に白熱した議論や意見の対立を経て、「野心的」だが「現実的」で「達成可能」なターゲットを模索していくのである。

 すべてを盛り込むことはできないので、SDGsとしては大きな枠組みを示し、課題・分野ごとに詳細な国際目標・ターゲット・指標が別に設定され、また国別に設定されるものもある。

 たとえば、感染症対策であれば、SDGsには「2030年までに、エイズ、結核、マラリアおよび顧みられない熱帯病といった感染症流行を終焉させる・・・」とあるだけで、「感染症流行の終焉」が意味する具体的な数値目標、特に新規感染や死亡の低減、診断・治療へのアクセス拡大などについては、疾病ごとにWHOやUNAIDSなどが協議・議論を進めて合意されたものがある。

 SDGsの達成に向けてターゲットを設定したら、それに対して現存する効果的な対策・介入をどのように拡大していかなければならないか、現存する方法で不十分であれば、新たな方法の開発、イノベーションをいかに促進していかなければならないかを考える必要がある。

 これまでの分析・検討によると、現存する対策・介入をフル活用すればSDGsのほとんどの目標を達成することができると考えられている。

人間中心に、そして地球的視野による連携を

 ただし、そのための資源動員とそれらの最適化が重要である。

 SDGs達成に必要な資金はセクターや分野ごとに推計されている場合が多いが、例えば、世界の感染症対策の主要な資金供与機関である私が所属する機関(グローバルファンド)では、SDGsのターゲットである3大感染症の流行終焉を達成するため、WHOやUNAIDS、学術関係者と共に「投資実例(Investment case)」といった分析を行っている。

 これは、感染症対策の様々な介入とその効果に関わるデータ、過去の疫学トレンド、対策に要するコスト、援助資金や国内資金の動向などのデータを基に、将来予測を行い、グローバルファンドとして貢献すべき中期的なターゲットを設定し、その達成に向けて必要な資金とその投資計画を示すものである。

 この分析によると、SDGs実現のために2017年から2019年の3年間で世界で各国の国内資金および援助の合計で970億ドルが必要。そのうち、グローバルファンドとして調達すべき資金目標は130億ドルで、これにより3大感染症に罹患していた800万人の命を救い、3億人の感染予防ができる。さらに、これを通じて2900億ドルの経済効果をもたらすことができる。

 このような推計は感染症以外の分野でもなされているが、それらを合計するとSDGsを達成するために低中所得国で必要な追加資金はおよそ1.4兆ドルと言われる(ちなみに、この額は日本の公的年金の積立金残高140兆円(2015年度)と同レベル)。

 ただし、その大部分はインフラ整備で、保健医療・教育などの公的資金が必要な分野・セクターでの国際支援ニーズは2200億-2600億ドルと考えられている。

 したがって、SDGs達成には引き続き先進国の途上国に対する支援が必要だが、政府開発援助(ODA)として先進国が国民総所得(GNI)の0.7%以上を途上国に支援すれば十分カバーできるレベルであると考えられている。

 しかし、SDGsではODAはあくまで触媒的役割であり、低中所得国の自助努力や民間セクターの役割がより重要視されている。そこで、最貧国であってもSDGs達成に割当てる国内資金をGNIの0.15-0.20%に増加することを推奨し、各国の自律・責任を促している。

 SDGsの実施には、政府・市民社会・民間セクター・国連機関などすべてのアクターが利用可能な資源を最大限に活用し、連携・協働する必要がある。SDGs達成には、MDGs時代以上にこれらの資源を効率的・効果的に利用し、シナジーを生んでいくための戦略的なパートナーシップが求められている。

 人間中心(people-centered)に考えながらも、生態系を考慮し、地球の視野に立った思考と対策、そのための連携・協働が必要である。

 たとえば、SARS、鳥インフルエンザやエボラ熱など、近年、公衆衛生上の危機として注目を浴びている感染症の多くは動物由来で、人獣共通感染症とも呼ばれ、ヒトと動物・自然界との接触、農業・牧畜、森林開発、気候変動など様々な要因と関連している。さらに、昨年の伊勢志摩サミットや国連総会でも議題に上がった「薬剤耐性(Anti-Microbial Resistance: AMR)」は医療のみならず、畜水産、獣医療、食品とも関連している。したがって近年では、健康問題をヒトだけでなく、動物、環境衛生など分野横断的な課題として扱い、様々な関係者が連携・協働して解決に向けて取り組む「ワンヘルス・アプローチ(One Health Approach)」が始まっている。