しかし、課題は未だ多く残されている。

 MDGsの中でも、達成されていない目標・ターゲットがあり、十分な成果が見られていない国も少なくないのである。

 世界全体としてみると、未だに約8億人が極度の貧困の中で生活し、約2億人の子どもが急性または慢性の栄養不良を示している。

 予防・治療可能な病気により毎日約1万6000人の子どもたちが、5歳の誕生日を迎える前に命を落としている。

 6億人以上が未だ安全な水を飲めず、24億人が衛生的なトイレを使えていない。これらが主な原因として起こる下痢症で死亡する子どもは1日800人にも達する。

 エイズ、結核、マラリアなどの感染症の現状もこれまで拙稿で述べてきたが、有効な治療や予防がありながら、これらによる死者は毎日約9000人、新規患者は毎日60万人以上に及んでいる。

 その意味では、まだMDGsはまだ終わっていない、未解決のアジェンダ(Unmet agenda)ともいえる。

新たな「国内格差」「環境」問題に直面

 さらに、MDGsでは取り上げられなかった新たな課題も多く出てきた。特に、国内格差の問題、環境問題などである。

 これらの課題は現場にいると肌で感じる。

 都市では開発や経済活動が進む中で、日本人も驚くような贅沢な暮らしをする富裕層が増えてきた。その一方で、地方では時間が止まったかのように、昔ながらの貧しい生活をし、援助も十分に届かない場所もある。

 工業化や都市化などにより、低中所得国の大都市では大気汚染や水質汚染が深刻化している。中国の北京・上海などの大気汚染は有名だが、インドのデリー、インドネシアのジャカルタ、ネパールのカトマンズなどを訪れると、朝起きてもどんより曇って暗く、日中でも太陽はおろか、隣のビルも見えないこともある。大気汚染がもたらす健康影響は大きく、その関連死は世界で年間約700万人ともいわれる。

 温暖化を含む地球環境の変化とその影響については、近年多くのエビデンスが出てきており、このまま放置しておけば我々の子孫に大いなる負の遺産を残していくことは明らかである。

 国連平和大使として活躍する俳優レオナルド・ディカプリオも、気候変動と環境保護は「この星で我々が存在するための最大の課題」であり、今を生きる私たち人類が「歴史的な偉業を成し遂げられるか、それとも歴史から非難されるか」判断を迫られていると国連の演説で主張している。

2030年に向けた「持続可能な開発目標」

 このような背景の中で、2年以上の年月をかけてMDGsの次の国際目標が作られた。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、いわゆる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)である。2015年9月25日、ニューヨークの国連本部で193カ国の首脳らによって採択された。

 SDGsでは、2030年までに達成すべき目標として17項目が示され、その具体的なターゲットが169、それを測る指標が230設定されている(表2)。

表2:SDGsの17目標

目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標 2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標 4 . すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセス を確保する
目標 8 . 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働き がいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標 9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び イノベーションの推進を図る
目標 10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
目標 11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する
目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標 14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標 15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠 化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標 16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法への アクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
(持続可能な開発のための 2030 アジェンダ文書の外務省による仮訳はこちら

 正直言って、MDGsに比べて目標・ターゲット・指標が多彩で数が多いため、「てんこ盛り」「優先課題や焦点が絞れていない」との印象を受ける人も多いだろう。様々な国、国際機関、市民社会、民間セクター、学術関係者を巻き込んで協議・議論した結果の産物である。これも大切、あれも大切、これが入っていない、あれを含めるべき、との様々な意見が出されれば、絞りきれなくなるのも仕方がない。「あらゆるステークホルダーを巻き込んだ議論」というのは口で言うのは簡単だが、実際のとりまとめはかなり難しい。

 それでも、世界の努力の結晶として作られたSDGsには、MDGsの成果と教訓、さらに現在我々が直面している課題を基に、将来のあるべき姿を希求した重要なメッセージが込められている。

 特に、経済成長、社会開発、環境保全の3本柱を明示し、それらの調和を目指そうとしたこと、途上国のみならず先進国を含むすべての国に適応されるユニバーサルな目標を示すことで、先進国も途上国も自らが抱える問題に取り組みながら、世界のために連携・協働することの重要性を示したこと、誰一人取り残さない(No one left behind)との強いメッセージで脆弱な立場にある人々への特別の配慮も含めたこと、などが特徴として挙げられる。

 さらにSDGsでは、5つのPとして、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)が強調された。これまで各国の利害を国と国の間(inter-national)また世界(global)で協力し合おうとしていた流れが、人間の存続・繁栄のために、地球(planet)の環境保全を考えながら、地球全体の平和と繁栄のためにパートナーシップを駆使していこうとの方向に向かおうとしている。インターナショナル、グローバルの時代から、プラネットの時代へのシフトである。

 SDGsの概念や方向性はいいが、具体的にどうやって目標を達成するのか、本当に達成できるのか。そこが問題である。

 具体的に保健医療分野のSDGsを見てみよう。

 MDGsでは乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、感染症の蔓延防止が目標となっていたが、SDGsでは目標はひとつ(表2の目標3)

 「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」

 である。

 その下に13のターゲットがある。これには、MDGsの3目標以外に、非感染性疾患(NCD)による早期死亡の低減、薬物乱用の防止・治療の強化、道路交通事故による死傷者の減少、リプロダクティブ・ヘルスの強化・普及、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成、有害化学物質・環境汚染による死亡・ 病気の減少、たばこ規制枠組条約の実施強化、ワクチンおよび医薬品の研究開発支援、安価な必須医薬品・ワクチンへ のアクセス向上、開発途上国の保健財政・保健従事者の能力開発・定着などの拡大、健康リスクの早期警告・リスク緩和・リスク管理のための能力強化などである。

 さらに、これらのターゲットをモニタリングするために26の指標がある。ターゲット3.3「2030年までに感染症流行を終焉させる」についてはHIV、マラリア、結核の罹患率、ターゲット3.4「非感染症疾患による早期死亡の低減」については循環器疾患、癌、糖尿病などの非感染症疾患による早期死亡(70歳以前の死亡)などが指標である。