タイヤ製造に携わる? 会社の顔として活動している以上、音楽そのものがいわば仕事だ。記者はこの楽団について、なんとなく「午前だけ仕事、午後に練習」というスポーツの実業団チームのような存在なのだと思っていた。だが工場となると話は別。夜勤もあれば、急な残業もある。ステージで輝くこの音楽家たちが、本当に工場でタイヤを作っているのだろうか。ブリヂストンに依頼し、団長に話を聞くことにした。

夜勤もあります

 「本当に、工場で働いていますよ。みんな同じ作業服を着て、タイヤをつくっています。夜勤もあります」

 翌朝、久留米に戻るフライトが控えるなか時間をとってくれた草野智弘団長は、不躾な質問に率直に教えてくれた。ちなみに草野団長は久留米工場長でもある。

 「久留米工場では、8時15分から16時35分まで、16時15分から0時35分まで、0時15分から8時35分までの3交代制でタイヤをつくっています。団員たちが練習するのは、仕事が朝からのシフトなら17時以降。夕方からなら仕事前のお昼ころ、夜勤のあとも、9時くらいから練習しています」

 話を聞くと、採用こそ楽器の実技試験があるなど一般社員と違うものの、入社後の給与体系や人事配置は他の社員と変わらない。吹奏楽団のメンバーとはいっても、あくまで仕事優先。急な増産や生産の遅れによる残業も発生するが、そんなときも「団員だからと優遇するようなことはなく、しっかり働いてもらっています」(草野団長)。

普段はタイヤ工場で働くお兄さんたちが、この日ばかりは正装して演奏する(2016年11月21日、東京芸術劇場)

 指揮者への謝礼や音楽ホールの使用料、演奏旅行の交通費などは会社が負担する。演奏旅行は社業の一環。タイヤをつくっていなくても団員は出勤扱いになるので、会社は団員と、その代わりに生産ラインに入る別の社員の両方に給料を支払うことになる。こうしたコストをすべて足し合わせると「運営費は年間で『億』を超える」(同)。

 部活動でもない、かといって純粋な「仕事」でもないのがこの楽団の音楽活動の特徴だが、草野団長は「実際にタイヤをつくっている社員が音楽活動をしていることに意味がある」と話す。プロの楽団では、どうしても聴き手とのあいだに距離ができる。「僕らの街に昔からある、あの工場で働いているお兄さんたちが演奏している」からこそ、60年間も愛され続けてきたといえるのだろう。