こうした状況に、「情報の非対称性」(売り手と買い手との間の情報格差)によりマンション住民が負わされる不利益が追い打ちをかける。例えば15年程度で実施される大規模修繕工事の費用は、須藤社長によると100戸規模のマンションで1億円程度が大まかな目安。ところがそうと知らない管理組合が、工事会社の2億円の見積もりに易々と応じるケースが後を絶たないという。
確かにそれも当然だ。1億円の建築工事を発注した経験がある人は、なかなかいない。「理事が10人いる管理組合が50あったとして、自分の仕事で1億円規模の工事を発注した経験がある人は500人中1人か2人いる程度」(須藤社長)。
相見積もりに突然の大幅値引きも
情報の非対称性が生む住民への不利益は、管理会社に支払う管理委託費にも降りかかる。管理委託には事務管理や総合設備点検などの「総合管理業務」と、日常清掃やエレベーター保守点検、植栽管理などの「専門業務」がある。そうした管理は、新築分譲時、デベロッパーの関連会社が請け負う設定になっているのが一般的で、そこに疑問を抱く人はいないだろう。
実際はその後、管理組合で適正な手続きを踏めば管理会社を変えられるのだが、現状は管理会社自らが管理委託費を半ば自由に決められる余地が生まれている。須藤社長によれば、管理組合が動いて管理会社を変えたことがあるケースはせいぜい2~3割程度。「管理会社は経営が安定する業態で、倒産しない」とまで言われるゆえんだ。
あるマンションでは総合管理業務の委託費を年間730万円支払っていたが、シーアイピーが競合他社も含めて相見積もりを取ったところ、事態は一変。これまで年間730万円を請求してきた総合管理会社は390万円という驚異の値下げを提示してきたという。
しれっと大幅に値引く会社の姿勢にはあきれ返るが、少し冷静になれば同じ商品やサービスの価格を相手によって変えることは、決して珍しい話ではないことに気づく。
例えばコンビニで150円で売られているペットボトルの飲料は、スーパーで100円を下回ったり、観光地の自動販売機で200円に跳ね上がったりする。販売サイドが「消費者はいくらなら買うか」を見定めてプライシングした結果であり、「観光地で90円で売ったら、ビジネス失格であることは誰でも知っている」(須藤社長)。
マンションが抱える問題についての説明が長くなった。管理費・修繕積立金の滞納による「損」も、管理会社や工事会社の言い値に応じて発生する「損」も、マンションに対する住民の積極的な参加意識の欠如が原因の一端と断じたら厳しいだろうか。マンション住民の打つ手はゼロではないのだ。後者であれば相見積もりで競争原理を働かせれば、不要な支出は抑えやすい。
先述のケースでは、管理組合サイドからの条件として管理会社に頼む作業量を以前よりも1~2割増やしたにも関わらず、総合管理業務・専門業務のトータルコストを約1700万円から約1000万円に圧縮できたという。滞納に対しては、ハードルは高いが法律による回収手段の仕組みが用意されていることは、先ほど書いた通りだ。
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