12月4日、日本一面白い漫才師を決める漫才コンテスト「M-1グランプリ2016」(ABC・テレビ朝日系)が開催・放送され、人気コンビの銀シャリが激闘を制して優勝を果たした。テレビの前で腹を抱えて大笑いしていた人もいれば、中にはスタジオの観覧席で漫才師たちの息のあった掛け合いを直接その目に焼き付けた人もいるだろう。かくいう記者も、学生時代から年末の一大イベントとしてこの大会を楽しみにしていた一人だ。

 実はM-1が開催されていたのと同じ日、同じ時間帯に、この大会を利用したあるユニークな実験が行われていた。一言で表現するならば、「遠く離れた場所ながら、あたかも現場で体験しているかのようにM-1を楽しむ」。勘の鋭い読者の中にはピンときた人がいるかもしれない。そう、最近注目を集めているVR(仮想現実)の技術を活用した実証実験である。

 VRとは、体に装着する機器や映像・音響などによって人間の感覚器官に働きかけ、あたかも現実のように感じられる環境を人工的に作りだす技術のこと。数十年前から実用化に向けた研究は進められてきたが、2016年は「VR元年」とも言われ、一般の人々が気軽に購入できる機器が登場しているほか、コンテンツの充実などにより一気に市民権を得てきた感がある。ソニー子会社も10月に家庭用ゲーム機と連動してVRのコンテンツを楽しめる「プレイステーションVR」を発売、大きな話題を集めた。

 シティグループのレポートによると、VRとAR(拡張現実)の関連分野の市場規模は2025年までに5690億ドルに拡大する見込みという。VR向けは主にゲームソフトだが、今後はコンサートやテーマパーク、スポーツや映画などでも活用されるようになるなど用途が格段に広がるとみられる。

南青山でM-1を「生観戦」

M-1グランプリの開催に合わせ、Syn.ホールディングスのオフィスで実証実験が行われた

 そこで、今回の実証実験だ。「VRを使った面白い実験をやるんですが、見に来ませんか」と誘ってくれたのは、KDDIグループのSyn.ホールディングスの広報担当者。朝日放送や吉本興業と組んでM-1を題材に使い、VRの空間上にCGで合成した視聴環境(=「部屋」)を用意。その中で同時刻に開催されているM-1の生ライブを遠く離れた場所から観戦するという。

 ここまでならよくありそうなVRの使い方に聞こえるが、最大の特徴はここから。実験では最大3人が同じ部屋に入り、視聴者の身体性、つまり体の動きや表情などを専用のアバターに反映させたり、音声でのやり取りもできるというのだ。自分一人だけでM-1を見るのではなく、最大3人が同じ空間にいるかのような状態で笑い合ったり、ネタの感想を言い合ったりもできるということになる。

 百聞は一見に如かずということで、早速12月4日の当日に実験を体験させてもらうことにした。M-1の本番が開催されていたのは六本木のテレビ朝日のスタジオだが、こちらの実験会場は東京・南青山にあるSyn.社のオフィス。この日は同社関係者だけでなく、一般参加として実験に協力してくれる男女3人の会社員の方々も一緒だった。