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 ちなみに日産の場合で疑惑が持ち上がっている、いわゆる一般的な「報酬」以外についての記載もある。たとえばゴーン氏は17年度、医療保険5610ユーロ(約71万9000円)相当の現物給付を受けている。取締役会への出席報酬として4万7540ユーロ(約609万円)も受領している。

 こうした項目が積み上がり、やっと「総括表」が示される。それによるとゴーン氏の17年度報酬は737万6234ユーロ(約9億4600万円)。ひとつひとつ読んできた身としては、登山口から一歩一歩進んできて、やっと頂上にたどりついたような達成感すらある。

 書類右下に記されたページ番号は「305」。ゴーン氏1人だけで、実に23ページを割いたことになる。このあと、取締役の報酬についての2ページ、シニア・エクゼクティブ職などの報酬についての3ページ。これで全28ページである。

 対する日産の有価証券報告書。コーポレート・ガバナンスについての章内にある、「役員の報酬等」という項は極めてシンプルだ。

 確定額金銭報酬と株価連動型のインセンティブ受領権から構成されていること。「確定額」は総額が29億9000万円と規定されており、その範囲内で配分することなどが記されているだけだ。

日産の有価証券報告書のうち、役員報酬についての記載は1ページのみ。ちなみにここには「株主総会で決められた総額29億9000万円を役員で配分するにあたっては、企業報酬コンサルタントのタワーズワトソン社のベンチマークを参考にする」と書かれている。だが、日経ビジネスの取材によると、このタワーズワトソン社で日産を担当していたピーター・ガンディ氏は今年9月、なぜかルノー・日産・三菱自連合に転職している(2018年12月10日号に詳細掲載)。

 もちろん、ルノーが報酬委員会を設けている一方、日産は設けていないといった差はある。開示姿勢以前に、そもそも報酬の決め方が異なるという事情もあるだろう。だとしても、28ページにわたる詳述のあるルノーと、1ページにも満たない日産を比べてみると、その違いに驚かずにはいられない。

 誤解を恐れずに言うならば、もし自分が日産・ルノー両社の経営を担う立場にあり、報酬について何らかの「工夫」をこらしたいとする。そんなとき、どちらの会社で「工夫」を試みるか。やはり、日産を選ぶのではないか。

結果に対する報酬、検証可能な形に

 記者は個人的に、正しい経営戦略を打ち立て、従業員を導き、会社を成長させてくれる経営者は、10億円でも50億円でも100億円でも報酬を受け取る権利があると考えている。だが、それは役職に就いていることに対する報酬ではなく、業績を出して従業員や株主に報い、社会に貢献したという結果に対する報酬であるべきだろう。

 そのためにも、その報酬が本当に経営トップの働きの結果を反映したものなのか、外部から検証できる仕組みが必要になる。日産の虚偽記載問題を、他人事と思えない日本企業は他にも多数あるはずだ。金融庁も、報酬額を算出するルールの開示について、基準の見直しを進める方針だ。この機会に改めて、情報開示のありかたについて深く考えたい。