経済産業省は2030年の電源構成について、石炭火力発電が全体の26%程度、原子力発電が20~22%になるという見通しを示しているが、この展望は現実的とはいえない。地球環境戦略研究機関(IGES)の栗山昭久研究員は「既設と新増設の石炭火力発電所の容量を足すと(経産省の)見通しを超過してしまう」と指摘する。
この課題をどう乗り越えればいいのか。事故のリスクを承知した上で、CO2を排出しない原発の稼動を進めるのか、太陽光や風力など再生可能エネルギーに一層の投資をするのか、今後も石炭火力を使っていくために二酸化炭素を分離して地中に埋める技術(CCS)の実用化時期を早めるのか。いずれの選択肢を選んでも相応のコストは発生する。難しい課題ではあるが政治と事業者、消費者とがなるべく早く議論し、方針を決める必要があるだろう。
石炭を強みに変えられるか
「トランプ氏の登場で、一時的に日本は(石炭の利用に)余裕が出るかもしれない」とブルームバーグのイザディ氏は指摘する。これまで日本は米国と欧州の双方から石炭の増加を抑えるようプレッシャーをかけられてきた。環境規制に懐疑的なトランプ氏の米大統領就任により、少なくとも一時期は米国の圧力はが減る可能性はある。だが、これに安穏としていては将来的なリスクは拡大するばかりだ。
エネルギーの専門家の多くは「一時的に環境枠組みが後退したとしても、温暖化ガスの増加を抑えていくという世界的な流れは、長期的に見れば変わらない」と分析している。日本の石炭依存が続けば、「トランプ後」に一気にその削減を求められる恐れがある。実利を重んじるというトランプ氏が、再生エネルギー市場の拡大を見込んで突然、環境規制派に回らないとも限らない。さらに欧州や米国の大手年金基金や投資運用会社は、石炭に依存する企業への投資から手を引き始めている。これに対応するためにも発電部門での脱炭素化は急務だ。
日本はパリ協定批准に出遅れ、約定国会議でも存在感を示せなかったという。石炭を使った発電の増加は課題であるが、同時に日本にとって切り札にもなり得る。石炭火力発電の効率を高める技術で日本は世界トップクラスを誇り、硫黄酸化物や窒素酸化物といった大気汚染物質の抑制技術でも群を抜いているからだ。
今も、そしてこれからも石炭火力に依存せざるを得ない国は途上国を中心に多い。こうした国々に日本の石炭技術を普及させることが出来れば、温暖化ガスの抑制は大きく前進するはず。国内外でもう一歩踏み込んだ対策を講じ、トランプ氏の登場で揺れる枠組みの中で存在感を強めることはできないだろうか。
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