東芝や日揮など海外での大型プラント建設に苦戦する企業が増えている。厳しい受注競争下、決まったスケジュールやコストで滞りなく仕上げるのは簡単ではないが、成否を左右するのは現場の総責任者であるプロジェクトマネジャー(PM)の資質だ。時代は異なるが、1990年代にカタールでの大型LNG(液化天然ガス)プラントを建設、業界では「伝説のPM」とも称される人物にプロジェクト遂行の秘訣を聞いた。

 プラント建設の総責任者であるPM。資機材の調達や人員の確保、信用リスクを含めた取引先の実情把握、工程や予算の管理、政情不安やトラブル対応、膨大な作業員の住む場所や食事の手配といった点に至るまで、プロジェクト全体の要となってありとあらゆる事項に目を光らせる役職だ。

 マニュアルや知識だけではとても対応しきれない。案件にもよるが、場数を積んできた40歳前後の中堅が務める例が多い。トラブルの芽を摘むのはもちろん、発生した場合の対処が腕の見せ所。事態を早期に把握し、大規模な対応が必要かどうか、代替策の検討も含めた総合的な判断力が問われる立場だ。

 PMが本来的な役割を果たせない場合、対応が後手に回り、連鎖的にトラブルが拡大。コストが膨らむといった、典型的な泥沼化の道をたどることになる。

 記者は千代田化工建設がLNGビジネス拡大の端緒をつかむことに成功したカタールLNGプラント建設でPMを務めた石倉政幸氏(すでに退職)を取材した。

千代田化工が手掛けたプラント(QATARGAS社〈カタール〉LNGプラント〈トレイン1&2〉)

 石倉氏が携わったのはカタールの砂漠で、1990年代半ばに建設した当時世界最大規模のLNGプラント。全体で数千億円規模といい、まさに社運を賭けたプロジェクトだった。

洪水、クーデター、大震災、相次ぐトラブル

 だがその道のりは平たんではなかった。想定外のトラブルが重なったのだ。

 まず大雨と洪水による現場の水没。数十年に一度の集中豪雨が数日間続き、工事の基礎部分が水浸しとなり、工事がストップ。排水に1か月ほどかかった。

 次いでカタールでのクーデター発生。本格的な武力衝突には至らなかったが、旧政権に近い地元取引先では、東南アジアなどからやってきている現場作業員へのビザ発給が突如進まなくなるなど、大きな影響が出た。直ちに新政権との関係が良好な取引先を活用することで、現場作業員の頭数をそろえた。

 不可抗力はさらに続く。95年の阪神大震災だ。神戸港の岸壁にある倉庫が崩れ、出荷予定だった配管などの資材を出荷できなくなった。新たに調達し直すとともに、納期遅れをカバーするために30トンに上る資材の空輸を余儀なくされたのだ。

 もしも納期に遅れると、大きなプラントだけに、顧客からの遅延損害金の請求も莫大な額となる。一連のトラブルを人海戦術で巻き返そうと、当初6000人と見込んでいた現場の人員数は1万人程度にまで膨らんだ。

 通常であればこれだけ突発的な事態に見舞われると、成功はおぼつかないように思える。それでも、納期内に仕上げることができたという。しかも「コストは当初見込みを15%下回ることができた」と石倉氏は振り返る。