経営者は現場を歩いているか?

 個人的な意見だが、問題は、経営者が現場のことを知らなすぎることにあるのではないか。現場には建前の数値と本音の数値が存在しているのに、そうとは知らずにコンプライアンスの徹底ばかり強調する。それがどんなに現場を心理的に苦しめているかも気づかずに、だ。

 ここで注意しなければならないのは、コンプライアンスの徹底そのものが悪いわけではない点だ。契約書を交わしたのであれば、それを守るのは当然のこと。ただ、根底にある「不正の真因」を理解せずにただ徹底するだけでは、効果が現れないのはもちろん、不正の連鎖をさらに生み出すことにつながりかねない。

 本当にやるべきことは、経営者が日常的に現場を歩くことではないだろうか。たまに行っても、現場は本音など打ち明けてはくれない。何度も通い、友達のように接することができるようになって初めて現場は、経営者が欲しい情報をくれるのだ。何度も行くことが必要なのは、記者も同じだから分かる。

 問題が出てきた時、現場を知らずにただ当事者を批判することは簡単だ。だが、本当に必要なのは「犯人探し」ではなく「全員が幸せになれる方法を経営者が率先して考えること」だろう。独自動車部品の巨人、コンチネンタルのエルマー・デゲンハートCEO(最高経営責任者)は、企業の不正についてこう話していた。

 「失敗は人間の性質の一つですから、当然、起こり得るものです。大切なのは失敗から学ぶ姿勢。失敗を透明性を持ってしっかり受け止め、そこからちゃんと学べる社風です。ここで重要になるのはやはり、経営陣のリーダーシップでしょう。トップが模範となる行動をして初めて、社員がモラルに従って行動してくれるようになります」

(日経ビジネス17年11月20日号の編集長インタビューより)

 メディアの仕事も同じだ。当事者をただ批判するのは簡単だが、本当に大事なのは、読者が幸せになれる方法を一緒になって考え、そのために必要な情報を提供すること。それが「発信する者」の役割だ。日経ビジネスはそういう雑誌だと信じているし、記者もそうあり続けたいと思う。

 最後に蛇足だと知りながら付け加えると、個人的には「あうんの呼吸」や「約束の商習慣」といった文化は日本に残り続けてほしい。ドラマの陸王が視聴者の心をひきつけるのは、そんな文化だからこそ醸成される情や熱意、不屈の魂といった精神論を日本人が愛しているからではないだろうか。記者自身が町工場の娘として生まれたからかもしれないが、中小企業の悲哀は必ずしも悪くない。大手に馬鹿にされて流す涙も、どん底からなりふり構わず這い上がろうとする姿も、記者の目には格好良く映る。