「あうんの呼吸」は海外では通用しない

 ポイントは前にも触れたとおり、「複数社で同時に起きている」という点にある。不正の真因をつかむには、不正に手を染めた個別企業の組織だけを見るより(それも、とても重要とは思うが)、もっと広い「業界」や「国」のレベルで物事を考えるのが自然だ。

複数の企業に同様の問題が起きているなら、その枠組みよりも大きな枠組みが影響を及ぼしている可能性が高い

 この図を作ってみて頭に浮かんできたのが、日本の製造業の特徴である「あうんの呼吸」という言葉だ。日経ものづくりの2011年5月号の特集「和製見える化では甘すぎる~動かない現場を動かすには」の取材で記者は、タイやベトナム、インドネシアにある日系メーカーの工場を訪れた(記事の抜粋は日経テクノロジーオンラインで読める)。その時、取材先が口をそろえていたのが、「日本的な『あうんの呼吸』は海外では通用しない。文字や数字、絵などにして見える化しなければ、現地の人には何も伝わらない」ということだった。

 その最たる例が「契約書」だ。日本では古くから「信用」による商習慣が根付いていたため、部品や素材を調達するのに細かな仕様を契約書に書いて取り交わす必要などなかった。だが、海外では違う。特に欧米では「契約書に書かれていないことはやらない」というのが常識。日本のメーカーの海外進出が加速した1990年代以降、この契約文化が日本でも徐々に「スタンダード」になっていったと考えられる。

ドラマ「陸王」にみる日本の商習慣

 記者は現在、TBS系で放映されているドラマ「陸王」にはまっている。見ている方が多く事例として分かりやすいと思うので、日本的な商習慣の「あるある」をドラマの中から少し取り上げたい。

 創業100年の足袋の老舗メーカー「こはぜ屋」。会社の生き残りをかけてスポーツシューズの開発を始めた4代目社長の宮沢は、取引先銀行の担当者の協力で、新開発のシューズの軽量化に適したアッパー(ソールの上の部分)の素材を見つけた。

 その素材を作っていたのは、「タチバナラッセル」という創業3年目のベンチャー企業だった。試作段階なので少ないロットの発注だったが、社長の橘は「苦労して開発した特許を使ってもらえるなら」と、採算度外視で快く取引を受けてくれた。

 ところが、ライバルの大手スポーツメーカー「アトランティス」が動き出す。倒産の危機に直面しながらも、やる気と熱意で次々と難関を乗り越えていくこはぜ屋。その勢いに脅威を感じ始めていたアトランティスは、「大量発注」をちらつかせ、タチバナラッセルとの取引をこはぜ屋から奪い取ってしまったのだ。

 新開発シューズの軽量化にタチバナラッセルの素材は必要不可欠だった。宮沢は涙ながらに取引継続を訴えたが、橘の話を聞いて引き下がった。赤字続きだった会社を守るためにアトランティスとの取引を選んだ橘の気持ちを、同じ経営者として痛いほど理解できたからだ。

 記者はこの部分を視聴しながら、「契約書を結んでいれば、こんなことにはならなかったのに」と思ってしまった。日本ではこういったことは起こり得る。信頼関係で結ぶ約束はあくまで約束。約束を破られても訴えることはできない。

 ではなぜ裏切りが生まれやすい商習慣が日本に根付いたのか。背景には、「その方が効率が良かった」ことがあると記者はみている。信頼関係で取引を交わす両社が共有するのは、「安くて良い製品を作るために協力する」という1点だけだ。手段は何でもいい。良い製品が生まれて顧客が喜べばそれでいい。