一方、「新しいクルマを所有すること」を是としてきた業界が「常識」を捨てることはそう簡単ではない。ウーバーやリフトといった新興企業の存在感は増す一方で、自らがどう新しい市場に適応していけるかどうかはまだ未知数だ。

 「多くの自動車メーカーにとって、非常に難しいプロセスになるはずです。シェアリングビジネスを展開するには、従来のビジネスモデルをダイナミックに変えていかなければなりません。例えば、中古車一つとってみても、彼らは今まで中古車を収益源と考えたことは一度もなかったはずです。それが今後は収益源になるんだという考えのもと、ビジネスを展開していくようにしていかなくてはいけないのですから」

 「新しい市場が生まれた時に、そこに対してどうアプローチするかは主に2つの方法があるでしょう。自らがビジネスを行うか、出資をするかということです。今回のシェアリングビジネスでいえば、遅かれ早かれ、各社は、自らビジネスを行わないといけない時期が来るはずだと思います。なぜなら、インタフェースを握れなければ、マーケットパワーをコントロールできないからです。スマートフォンでも同じことが起きていますよね。アップルやサムスンのことは知っていても、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業のことはほとんどの人が知らないでしょう。今、ウーバーを注文するときに、トヨタのクルマを、と頼む人はいない。シェアリングエコノミーの世界では、自動車メーカーのブランド価値は相対的に下がってきているのです」

 では、自動車メーカーが今からシェアリングビジネスに適応していくにはどうするべきなのか。それは自動運転が握るはずだ、とアルン氏はいう。

 「今後、生き残りをかけて自動車メーカーが望みを託せるのは、自動運転でしょう。シェアリングエコノミーを前提として、それに適した最良のクルマを作れる力が彼らにはある。そうしたクルマとインタフェースを合わせたサービスを展開し、プラットフォーム化できれば、大きなチャンスになると思います。一方、この世界を虎視眈々と狙っているのが、テスラ・モーターズというこれもまた新興企業なのですが」

 シェアリングエコノミーは、何も車の世界だけの話ではない。今後20年間で、エネルギー業界、さらには、もっと細かい家庭用品といったものにも広がる可能性があるという。

 「エネルギーのシェアリングは今後、価値が高まると思っています。例えば、電気自動車は、今後性能が上がり、さらにニーズが高まることはすでに見えています。太陽光ソーラーパネルを家で備えることが当たり前になれば、自分の自宅で蓄電し、近隣にも売っていくといった世界が生まれるでしょう。10~15年後には、エネルギーのシェアリングができていくはずです」

 「IoTの世界が広がれば、高価格のものでなくてもシェアリングの世界が広がる可能性があります。たとえば、掃除機にセンサーが入り、いつでも誰でもリアルタイムにその使用状況がわかれば、今よりもっと貸しやすい状況が生まれます。付加価値が低いものや安価なものは、その価値と比べて共有する負荷が高いと判断されれば共有されない。一方、共有の負荷が下がり、それがモノの価値に見合うようになれば、掃除機一つでも共有される世界がくるでしょう」

 一方、シェアリングエコノミーの世界が広がれば広がるほど、浮き彫りになる問題もある。最近問題になっているのは、差別の問題だ。エアビーアンドビーでは、実際に、ホストが有色人種を宿泊させないといった問題が起きている。(参考記事:民泊「Airbnb」を悩ます人種差別問題

 「シェアリングの世界における、ルールづくりや教育・啓蒙はまだこれからでしょう。問題は、『決断の主体』が誰にあるのか、というところなのです。ホストにしてみれば、自分の家を貸すのだから、自分がすべてを決められると思うでしょう。それも一つの考え方です。一方、飽くまでエアビーアンドビーのようなサービスは、商業的に部屋を提供しているわけですから、そこには社会のルールや法律がかかってくる。そういう認識をどれだけ事業者側が利用者と認識を一つにできるかがポイントになってくると思います。こうした問題に対し、エアビーアンドビーは啓蒙をしっかりやり、事後的に差別したホストはブロックし、部屋を理不尽な理由で見つけられなかったゲストに対しては宿泊先を見つけられるよう最大限のサポートをしているようです」

 「一方、個別の対応はあるといえど、さらに難易度の高い問題も抱えています。例えば、女性のホストが、ゲスト全般に対して『男性の宿泊はNG、女性のみOK』とすることは少なくありません。セキュリティの問題を考えて、女性のホストがゲストを女性に限定することは、違和感がありません。一方で、それは男性にとっては機会ロスというある種の差別になるかもしれない。何が差別で、何が差別ではないのか、というところは、非常に難しい線引きなのです」

 「とはいえ、これはどの業界にもいえることですが、新しい産業には問題がつきものです。ウーバーやエアビーアンドビーが各国の規制当局と調整をしていることもそうですし、差別の問題もそう。しかるべき方向で解決し、10年20年のスパンでシェアリングの世界がしっかり市民に根付いていくことは間違いないはずです」

 旧勢力と新勢力の話を書くたびに思い出す一言がある。「新しい市場に出て行くと決めたなら、早ければ早い方がよい」。1年ほど前にクリエイティブソフトウエア世界最大手の米アドビシステムズのシャンタヌ・ナラヤンCEOから聞いた一言だ。(参考記事:「過去の成功」を捨てられない全ての企業へ)先行者利益を得られるだけでなく、その分問題や失敗にぶつかり、その度に対応を迫られる。それが自らの血となり肉となりサービスが強固になっていくことは、どの業界にも共通していることだろう。自動車メーカーやホテル業界は、もう、悠長に構えてはいられないはずた。