東南アジアの小売業界が日本と同じような展開をしていくのであれば、ここでも近い将来、専門店が競争力を持ち独自の店舗を広げていくかもしれない。

 だがタイと日本の小売市場をよく知るタイ小売業協会のエグゼクティブ・ディレクター、チャットチャイ・ドゥワンラッタナパン氏はその見通しを否定する。「確かに専門店は競争力を高めるかもしれないが、ショッピングモールや百貨店から出るよりも共存共栄する方向に向かうのではないか。つまり少なくともタイでは路面店が広がる余地は大きくない」。

 理由は単純。「タイの蒸し暑い気候の中、わざわざ屋外に出て専門店周りをしたいと思う消費者はいない」(同)からだ。そもそもタイの道路事情からして、歩行者が歩き回りやすいようには作られていない。また東南アジアの車道は右左折がしにくく、行き止まりも多い。つまり自動車でも細かな移動には手間がかかる。実際、日本で路面店を多数出店して成功を収めたある日系小売りの幹部は「タイでは日本の出店ノウハウをうまく使えない」とこぼす。

 難儀して炎天下の屋外を歩き回るより、消費者は「一カ所で買い物を済ませたいと考えている」(チャットチャイ氏)。そのニーズに合わせようと、必然的に百貨店やショッピングモールはお客に楽しく長時間滞在してもらうための工夫を凝らす。

 たとえば現地百貨店の食品スーパーでは、特定の時間がくると大音量の音楽に合わせ全店員が突然踊り出す。化粧品などのフロアではモデルやダンサーが派手な衣装でフロア内を踊り、練り歩いて商品の販促活動をする。大量の花をあしらって店全体を飾り立てたり、ミーティングや休憩、仕事に使えるスペースをフロアぶち抜きで備えていたりする百貨店もある。

 百貨店やショッピングモールは「単に物を買う場所ではなく、過ごしてもらう場所」(現地百貨店幹部)なのだ。一方、こうした派手なイベントや仕掛けを日系の百貨店で目にする機会はほとんどない。

 消費者の高齢化が進む一方の日本に対し、東南アジアではスマホやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に慣れ親しんだ、比較的若い消費者層、いわゆるミレニアル世代が台頭している。その消費の担い手の違いが、双方の店づくりにも影響しているかもしれない。

 「思い切ったフロア改装や店づくりは日本ではやりにくくなっている。既存のお客さんから苦情がきてしまうから。チャレンジするのであれば東南アジアが最適かもしれない」。ある日系小売りの関係者は不満を漏らす。高齢化した日本の市場では、いわゆる「インスタ映え」を重視するような派手な店づくりより、落ち着いた空間を演出したり、なじみのある従来のフロア構成を大きく変えたりしない方が好まれるのかもしれない。

 対照的に、現地の百貨店やショッピングモールは若い世代に受ける店づくりを進めており、大規模なフロア改装にもちゅうちょはない。その結果、日本の百貨店や専門店は現地の店舗に比べて「洗練されているけど地味。しかも代わり映えがしない」(タイの30代前半の男性会社員)という印象を持たれてしまう。 

ネットの普及、現地小売りにはチャンス

 カテゴリーキラーが台頭した日本の小売りは、今度はインターネットの普及でEコマースとの競争に頭を悩ませるようになった。一方の東南アジアではネットやスマホは浸透しているものの、ECはまだ普及のスタートラインに立ったばかりだ。

 現地小売企業にとってこれはチャンスだ。彼らは「日本や欧米で小売りがECの後塵を拝し、ネット戦略で失敗してきたのを見てきた」(現地大手小売り関係者)。その教訓を、ECが黎明(れいめい)期にある今活かすことができれば、自社の売り上げ拡大につなげられると見る。

 彼らが注目するのはオムニチャネルやO2O(オンライン・トゥ・オフライン)といった、リアルとネットを融合させた戦略だ。日本ではオムニチャネルの成功例は少ない。ただ東南アジアではパソコンを飛び越えてスマートフォンが急速に普及したため、出先でネットを閲覧するのが一般的になっている。それに加えて消費者が店で長時間過ごす習慣もある。日本よりネットとリアルの融合は容易かもしれない。少なくともタイの小売企業はそう見て投資を強化している。一方、日系企業で東南アジアのEC普及に対応した動きはほとんど見られない。

 カテゴリーキラーの路面店が発達しにくい環境、消費の担い手としての若年層の台頭、EC普及のペースの違いなどが、東南アジアの小売りに日本とは次元の異なる進化発展を促す。日本市場に軸足を置く日系企業がこれに対応するのは容易ではない。

 かつて日本の小売りは米国をモデルに、その先端のサービスを取り込んで発展した。その目を今度は東南アジアに向け、独自進化を遂げつつある現地の小売りを徹底的に模倣してみれば、新しい活路が開けるのかもしれない。

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