無防備な中小企業も多い

 実は無防備な状態は企業でも起きている。中小企業のほとんどが弁護士と顧問契約を結んでいない。そればかりか日弁連の調査によると「弁護士を利用したことがない」と答えた企業は55.2%に達した。2008年の47.7%と比べても増加傾向にある。

 顧問契約を結んでいても機能していないケースも多い。東大阪市で板金業を営むA氏は売掛金150万円を抱えていた。未払いの企業に支払いを申し出てものらりくらりとかわされてしまう。業を煮やしたA社長は顧問弁護士に連絡した。弁護士から「私は専門外でわからない。着手金や成功報酬を考えると、手元に残らないのでやめた方が良い」と言われたという。A社長としてはいざという時のために月5万円を支払って顧問契約を結んでいた。A社長は「何のための顧問契約だったのかわからない」と嘆く。

 こうしたなか、日弁連を中心に企業向けの弁護士保険を提案する動きがある。保険さえ加入しておけば、労務や知財など分野別の専門家に依頼できるようになる。紛争時の弁護士費用も保険で賄えるため、中小企業も自身の権利を主張しやすくなる。企業にとっては分野別に専門性にたけた弁護士に依頼できるので効率が良い。欧州では同様の保険が既に発売されていて約77億ユーロの市場規模に成長しているという。

 多田弁護士は「医者の専門医認定制度があるように、弁護士を得意分野で選ぶ時代がやってくる」とみる。弁護士に依頼するとなると、裁判沙汰のような大げさなものに感じる。だが弁護士は話し合いで解決することも少なくない。当然のことながら専門家が味方についた方が勝率は上がる。コンプライアンスや企業の防衛能力の向上により、紛争件数は増えている。

 政府は2002年、法曹人口の拡大を目指し、司法試験の年間合格者数の目標を3000人とする司法制度改革の閣議決定をした。だが若手が法律事務所に入所できないなどの問題が生じ、2013年に目標を撤回している。こうした保険制度が導入されると、企業も個人も弁護士を利用しようという機会が増える可能性が高い。