「従来とは違う事業にも進出しなければ」と危機感を覚えた吉村社長が目をつけたのは、汚泥などの有機物を分解して堆肥にする「超高温好気性菌」だった。特徴は、分解時に約100度まで高温になること。有機物を分解する微生物は世の中に数多く存在するが、ここまでの熱を発する種はまれだ。鹿児島県にある産業廃棄物処理企業「山有」の山村正一社長が発見し、YM菌と名付けた。共和化工が2002年に同社と提携したことで、産業活用が広がった。

堆肥事業に活路

 要するに、プラントメーカーの共和化工が堆肥事業に打って出たということだが、農作物用肥料などの製造は大手化学メーカーがひしめき合う競争市場。水処理プラントとは競争相手が違うものの、「結局は苦しい戦いになるのではないか」と感じる読者も多いだろう。

 だが吉村社長には勝算があった。鍵になるのは、YM菌が発する約100度という熱だ。堆肥の製造では、発酵が停滞して十分な発酵温度が得られない場合、悪臭が発生し、腸管出血性大腸菌O157 やサルモネラなどの病原菌が増殖する。国内外では家畜糞尿などから堆肥を製造する取り組みが進むものの、これらの理由から化学合成された肥料が主流になっている。

「農業分野で資源を循環させ、環境保全に貢献する」と語る吉村社長。
「農業分野で資源を循環させ、環境保全に貢献する」と語る吉村社長。

 「100度近い発酵温度なら、悪臭の原因となる菌を死滅させられる。それに、堆肥の原料となる汚泥は従来の下水処理事業でいくらでも確保できた」と吉村社長は語る。下水処理で発生する汚泥のほとんどは焼却処分か埋め立て処分されており、土壌にリサイクルして戻すというアイデアは世の中であまり検討されていなかった。共和化工は汚泥などの有機性廃棄物を発酵させるプラントの製造を開始した。汚泥を活用したことで、従来の化学合成肥料と比較して1トンあたりの価格も半値以下に抑えたという。

 最後の問題は、どのようにして農家にそれを伝えていくか。吉村社長は「汚泥や発酵の説明をしても、どうしても難しい内容になってしまう。農家の方により興味を持ってもらうためには、その堆肥で育った作物の料理を実際に食べてもらうのが一番だと考えた」と説明する。こうして2年前にオープンしたのが、小料理屋「和饗」だ。

和饗のカレー。じゃがいもや米、かぼちゃ、レタスなど共和化工の堆肥で育った作物を使用する。汗がにじむ辛さだ。
和饗のカレー。じゃがいもや米、かぼちゃ、レタスなど共和化工の堆肥で育った作物を使用する。汗がにじむ辛さだ。

 農家をはじめ、地方自治体、農業協同組合の職員などが来店しているという。もちろん一般向けにも提供している。一歩一歩努力を重ねたことで、堆肥の発酵プラントは現在全国36カ所を構える。

 「ここまで来るのに10年かかった。しかし、国内で1日4万トン出ている汚泥のうち、活用されているのはまだ15%程度。汚泥をさらに活用するため、今後も事業を発展させていきたい」と吉村社長は意気込んでいる。

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