プラスチックケースに液体の入っている保冷剤。キャンプ用品やスーパーマーケットの宅配サービスで以前から使われ、肉や野菜、飲料などを冷やして運ぶのに使われる。クーラーボックスに入れて数時間程度、低温に保つ。冷蔵庫に入れて何度も再利用する。

 そんな何の変哲もないいわば「ローテク」の保冷システムが今、改めて着目されている。全日本空輸では保冷剤に対応した冷蔵専用の貨物コンテナを開発。今年9月から「PRIO IB Fixed Temp.」というサービス名で国際貨物での運用を開始した。

 さらに日本貨物鉄道(JR貨物)でも貨物列車を利用した冷蔵物流を強化し、今年7月から保冷剤を利用したコンテナ1台を導入して、試験運用を始めた。

 なぜ今、低温物流に注目が集まっているのか。

地球の裏側までも低温で運べる

 ANAホールディングスの物流子会社、ANAカーゴの担当者、小野博義・マーケティング企画課マネージャーは「医薬品や農林水産物、食品の保冷輸送マーケットが急速に伸びている」と説明する。特に中国や東南アジアなど、新興国への国際航空貨物の需要が増す中、日本の医薬品や食品の輸送ニーズも増えている格好だ。

 今年9月のサービス開始に先駆けて、試験運行が実施された羽田空港内にある国際線の貨物ターミナル。夜中12時30分に羽田を発つタイ・バンコク行きの夜行便に、白桃やマスカットなど高級フルーツを収納した冷蔵コンテナが積み込まれた。

保冷剤を使ったANAカーゴの航空コンテナ。コンテナ上部にラックがあり、そこに必要な枚数の保冷剤(緑部分)を積むだけ(写真=竹井俊晴)
日本各地から取り寄せた高級フルーツが低温航空コンテナに積み込まれる。温度は摂氏2~8度で100時間以上、維持できる(写真=竹井俊晴)

 配送を依頼した農産物の輸出を手がけるみずほジャパン(茨城県つくば市)の井戸英二取締役は「低温輸送でフルーツが痛まず鮮度が保たれ、取れたての味を楽しめると現地の顧客にも好評だ。輸送可能な時間が長いので今後は、インドネシアやインドなど冷蔵輸送のインフラが未整備な地域にも輸出していきたい」と話す。

 同社ではタイの富裕層を中心に日本のフルーツの注文を受ける。1週間ごとに各生産地から取れたてのフルーツを取り寄せ、バンコクで運営する店舗に送る。「今朝、取れたものが翌日には現地の店頭に並ぶ」(井戸取締役)。

 ANAカーゴでは写真のようなLD3と呼ばれる航空コンテナ2つを、保冷剤を使った冷蔵輸送用に用意。これまでに生鮮品や化学品の輸送で利用されている。温度は摂氏2~8度を維持する。

 低温を維持する時間は100時間以上。日本国内と海外現地での陸送を含めても「全世界をほぼカバーできる」(ANAカーゴの小野マネージャー)。今後はコンテナの数を増やしてサービスを拡充する予定だ。

 保冷剤を使った輸送装置の最大の利点は電気を必要としないことだ。機内で冷蔵装置使うには別途、発電機が必要だが、その必要がない。また、ドライアイスの場合、マイナス79度で気化するドライアイスでは内部の温度を一定に保つのが難しかった。これらの欠点を補う形で、改めてローテクの保冷剤が見直されたというわけだ。