「1日3時間睡眠で1カ月間休みなし」「1週間会社に泊まり込んで徹夜もざら」――。某大手広告代理店も腰を抜かすような、過酷な労働環境に置かれている会社員の姿が話題に上るケースが多いのが、技術革新が進み注目を集めるIT(情報技術)の業界だ。インターネット上には何年も前からこうした「残酷物語」のエピソードが飛び交い、華やかなイメージの裏で長時間勤務や不安定な労働条件に苦しむ技術者が多数存在することが指摘されてきた。

 ネット上の書き込みなどには誇張された表現などもあるだろうし、個々の企業の細かい労働実態までを網羅的に把握することは難しい。ただ、厚生労働省の2015年賃金構造基本統計調査によると、職種別年収ではプログラマーが408万円で全65職種中35位、システム・エンジニアは592万円で同18位。単純比較はできないものの、米国の電子工学技術の学会が実施した調査では、同国のIT技術者の年収は13万5000ドルとされており、少なくとも待遇の面では大きな差があるようにみえる。

2030年には79万人が不足

 さらに、国家レベルで深刻な課題となるのが人材不足だ。経済産業省が6月に発表した調査では、国内でITに関わる人材は現時点で約17万人が不足しており、2030年にはその数が最大で約79万人に増えると予測。技術の進歩や競争激化でIT需要が一段と高まる一方、諸外国に比べて人材の育成や確保が追いつかず、深刻な需給ギャップが生まれる可能性が高いという。

 政府ではこうした状況を防ぐため、2025年までにIT人材を現在の約103万人から202万人に倍増させる方針で、新たな資格制度を作ったり小中高校での教育を強化したりといった施策を進める計画。ただ、現状では若者が夢や希望を持ってIT業界に飛び込むことができるようになるのかは不透明だ。

IT人材の供給動向の予測と平均年齢の推移
出所:「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(経済産業省)

 こんな問題意識を持って調べていくうち、あるキーワードが耳に飛び込んできた。それが「フリーランス」。聞けば現在、大手IT企業で経験を積み腕に自信のある若手技術者が、自ら希望してフリーランスへの道を進むケースが増えているという。企業側にとっては限られたIT技術者を有効活用できる一方、働き手にとってもフリーランスとして活躍できる土壌が整えば、働き方や働く場所の選択肢が広がり条件面でも改善が進む可能性があるというのだ。

 ただ、いわゆる「ブラック企業」ならいざ知らず、大手の安定した雇用環境を捨ててまで独立して働きたい技術者が増えているとはどういうことなのか――。そんな疑問を解消するため、IT技術者の人材サービスを手がけるgeechs(ギークス、東京都渋谷区)に話を聞きに行ってみた。

 ギークスは前身となる企業が2001年に設立され、2002年からIT人材紹介事業を始めた業界の草分け的存在。その後ゲーム事業などにも参入する一方、基幹の人材紹介事業は現在でも急成長を続けているという。「開発現場とITフリーランスを繋げる」ことを掲げ、技術者を求める企業への営業を代行したり、案件受注のサポートを行うのが主なサービス内容だ。2015年のフリーランス技術者の新規登録者数は前年比で2倍近くに増えている。