「なんかガンダムみたいなクルマばっかだよなぁ」
2年ぶりに開催された東京モーターショー(会期:10月27日~11月5日)。各社のブースを回っていた知己の国内自動車メーカー技術者に記者が声をかけたところ、溜息をつきながらこんな言葉を漏らした。
ロボットアニメの金字塔に例えた感想には2つの皮肉が込められている。
ゴツゴツとしたデザインが「空力を無視し、無理矢理未来感を出そうとしているように見える」ということ。そして「実際に市場に出そうもない」ということだ。ガンダムのような人型ロボットは、同じ造形のまま実寸大にすれば、歩くことすらままならないのはよく知られた話だ。
モーターショーは将来の技術戦略を披露する場でもあり、展示されるコンセプトカーは必ずしも量産化を前提にしたものばかりではない。それも承知の上で、この技術者は「最近は『口先戦略』が目立ちすぎる」と苛立ちを感じているようだった。
「2040年の予想なんて、できっこない」
コネクテッドカー、自動運転、シェアリング、電動化。「100年に1度」といわれる自動車業界の変革は、市場の先行きを不透明なものにしている。「2040年にどんなクルマが売れるのか、識者の予想を集めてシナリオを策定しようと試みたが、不確定の要素が多すぎることが分かっただけだった」(大手自動車部品メーカー幹部)。
それでも世界の自動車メーカーが将来の電動化比率や自動運転の普及について予測を語り、その方針に沿ったコンセプトカーをつくるのは、消費者や各国政府を巻き込んで自社の技術的強みを生かせる市場を形成するためだろう。技術者の中には、こうした戦略は裏付けがない“喧伝”だと感じる人も少なくないのかもしれない。
記者の視線で東京モーターショーを見ると、電動化や自動運転に寄ったコンセプトカーばかりが目立ち、具体的技術要件も定まってないので企業間の比較もしにくい。正直、面白みに欠ける内容ではあった。
しかし、コンセプトカーが企業の将来へのコミットメント(誓約)だと考えれば、つまらないと切り捨てられるものばかりでもない。将来の各自動車メーカーのあり様に関して、むくむくと記者の妄想を膨らませてくれるクルマも確かにあった。
1つはトヨタ自動車の「TOYOTA CONCEPT-愛i」。搭載された人工知能システム「Yui(ユイ)」は、ドライバーの嗜好や感情を分析し、ドライブコースの提案などをしてくれるという。
「TOYOTA CONCEPT-愛i」はドライバーの表情などから感情を捉える(写真:稲垣 純也)
トヨタは情報プラットフォーマーに?
トヨタはごく一部の機能ではあるもののユイの体験用デモ機を準備。データをどのように取り込むのか、そして感情という曖昧な問題にどう取り組むのか、担当者が詳細に解説した。
同様に感情認識AIを打ち出したホンダや三菱自動車工業と比較しても、一歩抜き出ている印象だ(トヨタのAIについては「日経ビジネス」2017年11月13日号のテクノスコープでも詳しく解説する予定です)。
記者が特に興味を引いたのが、1月の米家電見本市「CES」で初公開した4人乗り車に加え、2人乗りの超小型車、立ち乗り用のパーソナルモビリティーもコンセプト-愛iシリーズとしてお披露目した点だ。
トヨタのディディエ・ルロワ副社長は「クルマからパーソナルモビリティーに乗り換えても、瞬時にドライバーとの密な関係が継続される」と強調する。つまり、クルマを乗り換えても、クラウドサーバーを通じ、AIのユイは消費者の嗜好にあったサービスを維持してくれるということだ。
この話を聞いて、多くの人が米アップルのデータ保管・共有サービス「iCloud(アイクラウド)」を思い浮かべるのではないだろうか。クルマはスマートフォンやスマートウォッチのような情報端末となり、それぞれを繋ぐ巨大なAIネットワークが築かれる。
トヨタの元にはクルマを媒介にして個人情報が大量に集まる。トヨタはGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のような情報プラットフォーマーになるのかもしれない。
付け加えれば、このサービスはカーシェアが普及し、消費者がシーンに合わせてクルマを乗り換えるようになった時にこそ、真価を発揮する。トヨタの未来のビジネスに関して、多くの示唆をコンセプト-愛iは含んでいると感じた。
マツダのコンセプトカーは、光をまとう?
記者の目を引いた、もう一つのコンセプトカーはマツダの「マツダ VISION COUPE」だ。マツダの次世代車のデザインを象徴するクルマとして世界初公開となった。環境技術「スカイアクティブ」と並んでマツダの復活の立役者となったのが、動物のような躍動感をモチーフにした「魂動デザイン」。ビジョンクーペはその進化形だ。
マツダは東京モーターショーの直前、都内で一足先に報道陣にビジョンクーペに関する記者会見を開催。「半年かけて関係者を口説き落とした」(デザイン担当の前田育男常務)という東京国立博物館の法隆寺宝物館を会場に設定した。残念ながら台風の影響で会場は都内のディーラーに変更となってしまったのだが、マツダの力の入れようは強く伝わった。
もっとも、ビジョンクーペを一見した記者の印象は「2年前の方がカッコよくないか」だった。2015年の前回東京モーターショーで披露された「RXビジョン」と比較すると、ビジョンクーペの造形は極めてシンプルで、物足りなさも感じる。
2015年公開のRXビジョン(上)と、今回のモーターショーで公開したビジョンクーペ
しかし、開発担当者の田中秀昭氏によれば、ビジョンクーペの狙いはクルマが動いて初めてみることができる。下の動画で確認してもらいたい。車体表面に反射する光が、渦を巻くように変化しながら動いていく様子がわかるだろうか。ビジョンクーペは反射光の「流れ」を計算し、装飾の1つにしているのだ。1980年代から感性工学を追及してきたマツダらしいコンセプトといえる。
「製造誤差の範囲で光の反射の仕方が変わってしまう。プレス職人にもアートの感覚が求められる」と田中氏は説明する。ここまで凝った作りにしてしまってはとてもそのまま量産化できると思えないが、次世代デザインのコンセプトカーである以上、その要素は量販車にも反映されていくことになるのだろう。
コンセプトカーから量産車への設計変更の中で、生産コストや経営資源と折り合いをつけながら、何を守り何を捨てるのか。その過程は、マツダが将来どんな企業となるかの指針を示していくことになるように思える。
販売規模を考えれば、高付加価値のクルマをつくらなければ利益を確保できない。然りとて、マツダが高級車メーカーを目指すわけではない。どんな価値を、どの価格帯で、どのような顧客に売るのか。近い将来、マツダの企業としてのあり様が、取捨選択の過程を経てビジョンクーペが世に出た時にはっきりと現れるのではないか。そのような期待を抱いて、東京モーターショーの会場を後にした。
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