不動産で「顧客本位」は根付くのか

 総務省が5年に一回実施している「全国消費実態調査」。最新の「平成26年調査」によれば、家計資産において金融資産が占める割合は29.8%にすぎない。残る70.2%は住宅・宅地資産など、実物資産だ。

 不動産は人生で購入する回数が少ないのに加えて複雑な規制が入り組むため、売り手と買い手の情報格差が大きい。「顧客にとっての資産価値を最大化する」という視点で営業をしている点でも、金融商品と似ている。それでは、不動産業界は「顧客本意」を徹底できているのだろうか。

 全国的に空き家が増えているのに、次々と建築されるアパート。不採算となって頭を抱えるオーナーが少なくない。多くの相談が寄せられるサブリース問題解決センター(東京・中央)の大谷昭ニセンター長は、「アパートを建てても採算がとれない土地なのに、『相続税対策になる。家賃は30年保証する』と業者に説得されてしまう」と証言する。30年間満室で家賃減額もないという非現実的なシミュレーションを提示して契約を迫る業者もいる。数年たって採算がとれないことが明らかになったら家賃減額を要求され、結局オーナーが損失を被ることになるケースが多い。

 分譲マンションや住宅についてはどうか。一昨年、話題になった横浜市の「傾きマンション」のケースは、業界を代表する大手が不具合のあった物件の建て替えや買い取りという手厚い補償を提案し、責任を果たした。だが、途中経過を見れば、建物の不具合を住民が再三訴えても現状をしっかり調査することすらしぶり続けていた。ある住民は「建築の専門知識を持った人がたまたま住んでいたから戦えたが、さもなければ泣き寝入りになっていた」と証言する。

 賃貸物件でも、情報格差を利用する業者が少なくない。首都圏不動産公正取引協議会が今年4~7月に5つの大手不動産情報サイトにおける広告の実態を調べたところ、調査対象とした929物件のうち78物件(8.3%)が「おとり広告」。違反企業は143社中32社(22.3%)に上った。おとり広告とは、実際には存在しない好条件の物件を広告に掲載することだ。美味しい条件につられてやってきた顧客に「残念ながら、ちょうど契約が決まってしまったんですよ」などと言い抜けて、ほかの物件を紹介するというわけだ。

 もちろん、これらは一部の事例にすぎず、まっとうに商売をしているケースがほとんどであることは承知している。ただし、不動産という高額商品はトラブルに巻き込まれた人が文字通り人生を左右されることになる。金融商品よりもよほど厳格に「顧客本位」を貫く必要があるはずだ。

 金融各社は今、それぞれ「フィデューシャリー・デューティー宣言」を打ち出し、実態もそれに合わせて変えていこうとしている。それは、素人に対して「情報格差」を利用して儲けることはしないという決意の表れでもある。不動産業界にもその波が及んで初めて、日本の資産運用ビジネスが健全化したといえそうだ。