VR(仮想現実)上でのイベント空間を提供するスタートアップがある。バーチャルYouTuber(VTuber)のブームを受け、事業拡大に期待が掛かる。創業者の加藤氏は約3年の引きこもりを経て起業にこぎ着けた。起業に突き動かしたのは何か。
突然だが、輝夜月(かぐや・るな)さんという人物をご存じだろうか。売り出し中のアイドルでも若手女優でもない。正確に言えば、人物という表現が正しいかどうかも分からない。

彼女の正体は「バーチャルYouTuber(VTuber)」。動画サイトYouTubeで2017年12月から活動するバーチャルタレントだ。人気は高く、今年8月31日に開催された音楽ライブは5000円の有料チケット数百枚が10分で売り切れたほど。恥ずかしながら記者自身は知らず、20代の後輩記者から「えっ! IT(情報技術)系の記者なのに知らないんですか」とダメ出しを受けた。
有料ライブが成功した理由の1つはもちろん、輝夜さんの人気だろう。ただもう1つ、ライブの価値を高めたのがVR(仮想現実)技術の存在だ。VR空間上でのライブは、ヘッドマウントディスプレー(HMD)で見れば、これまでにない没入感を得られるようになる。その黒子役としてVR上でのライブを支援するのが 東京・五反田に本拠を構えるクラスター(東京都品川区)だ。
バーチャル空間を提供
クラスターが手掛けるのは、VR上でイベントなどの場を提供する「cluster」と呼ぶサービス。16年2月にアルファ版、17年5月から正式版でのサービスを開始した。一度のイベントで最大5000人のユーザーが同時に参加できるのが特徴だ。
ユーザーは無料でVR空間にバーチャルルームを作成し利用できる。クラスターは、イベントのチケット販売の手数料だけでなく、イベントの演出などのサポートで収入を得ている。「秋以降も音楽ライブの開催は計画している」とクラスターの加藤直人CEO(最高経営責任者)は語る。

興味深いのがクラスターのコンセプトだ。VR空間の場を提供する同社らしく、「引きこもりの加速」を掲げる。実は加藤氏自身、大学院時代の引きこもり生活を経て、クラスターを創業している。引きこもりの経験に根差した理念なのかもしれない。
加藤氏は1988年、大阪で生まれた。高校卒業後に進学した京都大学理学部では「宇宙関連と量子コンピュータ関連の研究に取り組んだ」(加藤氏)という。だが、京都大学大学院に進学した際、疑問を抱くようになった。「研究は楽しい。でも本当にやりたいことなのだろうか」
いったん立ち止まった加藤氏は、進学して間もなく、大学院の休学を決めた。2012年秋ごろのことだ。
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