実際、利用者の属性に応じたダイナミック・プライシングは、すでに実現可能性の低くないアイデアの一つとして語られるようになっている。

 「サッポロビールをこよなく愛する男性に売るサッポロビールと、アサヒビール一筋の男性に売るサッポロビール……。このふたつが同じ値段でスーパーやコンビニの棚に並んでいるのって、不思議なことだと思いませんか」

 つい最近も、大手金融機関でデジタルサービスの開発を統括する役員が、懇談の席でそんな話題を切り出していた。元からサッポロ派の男性なら、定価でもサッポロビールを買ってくれる。一方でアサヒ派の男性に一度でもサッポロを味わってもらうためには、割引して販売しても良いのでは、という議論だ。

「なんだか不公平」と感じる?

 つまり同じ時間帯に同じレジに並んでいて、同じ商品を購入したとしても、価格は購入者によって異なることになる。個人的には、ここまでいくと「ぼったくられている」より「なんだか不公平だなあ」と感じてしまいそうだ。

 私たちはすでに、インターネット上で似たような経験をしている。ターゲティング広告だ。同じ時間帯に同じウェブサイトにアクセスしていても、過去の閲覧履歴などに応じてまったく別の広告が表示される、あの現象だ。

 小売り企業や金融機関は最近、いかに消費者の購買履歴データを取得し、販売促進に生かせるかを競っている。つまり利用客の属性に応じて価格を変える根拠となるデータは集まり始めている。遠くない将来、「ターゲティング広告」ならぬ「ターゲティング価格」が導入されていても何らおかしくない。

 航空料金やホテルの宿泊料金など、すでに世にあるダイナミック・プライシングは、支払いのタイミングには他の利用客と居合わせないものがほとんどだった。これは、他の客がどれだけのお金を払ったのかは見えにくかったことを意味する。

 もし今後ダイナミック・プライシングの導入領域が広がり、身近なスーパーやコンビニ、あるいは飲食店でも価格が変動することになったらどうなるか。

 「あれっ? あっちのお客さんの支払い額、僕と違う」。そう気づいたとき、消費者は企業に対してどんな感情を抱くか。

対抗サービスも登場

 海外ではすでに、ダイナミック・プライシングに対して消費者が抱く「私は損しているんじゃないか」という思いを解消するためのサービスが登場している。ホテルや航空料金をいつ予約すると最も安くなるかをAIが予測してくれる「hopper」や、ホテルの宿泊料金が予約時よりも下がったら、自動で予約し直してくれる「Service」などが代表例だ。

 価格設定はビジネスの成否を左右する、商いの根幹ともいえる経営判断の一つだ。ダイナミック・プライシングと無縁でいられる企業はほとんど存在しないだろう。ビジネス誌の記者として、これほど興味をそそられるトピックはない。多方面からの取材を試み、いつの日か特集記事としてまとめてみたい。