企業取材をしていて、ダイナミック・プライシングという言葉をよく耳にするようになった。直訳するならば「動的な価格設定」。モノやサービスの価格を、需要と供給のバランスなどに応じて変動させる取り組みのことだ。

 価格の変動自体は決して目新しい話ではない。盆や正月に航空料金やツアー旅行の料金が割高になるのもそう。居酒屋などで客の少ない夕方早めの時間帯を「ハッピーアワー」などと称し、割引を実施しているのも一例だろう。

 ただし、従来は営業担当者などが自身の経験や勘に基づいて値決めする場合がほとんどだった。一方、いま注目を集めるダイナミック・プライシングのキモはAI(人工知能)の活用にある。販売実績などの膨大なデータをAIに学ばせることで、最適な価格を自動的に、より高い精度で割り出せるようになったのだ。

 ダイナミック・プライシングはいま、離陸期を迎えようとしている。三井物産は今年6月、ヤフーと組んでダイナミック・プライシングを手がけるための新会社を設立した。すでに17年にはプロ野球・福岡ソフトバンクホークスの一部試合で、需給に応じて入場価格を決める実験を始めたという。

 国土交通省と日本交通グループも10月から、時間帯によって迎車料金を変える実証実験を始めている。電力業界では需給が逼迫する夏の昼間などには料金を上げるといった課金体系の検討が進んでいる。

一物一価の終焉

 「物々交換をしていたような昔には、価格って変動して当たり前のものだったと思うんです」

 そう話すのは、AIを活用したホテル向けの宿泊料金提案サービス「マジックプライス」を提供する空(東京・千代田)の松村大貴CEO(最高経営責任者)だ。

 「ところが……」と、松村CEOは自説を語る。「大量供給・大量消費の時代になって、売り手と買い手がモノやサービスの対価をその都度交渉していては効率が悪くなった。そのうちに、いつしか価格は固定され、20世紀は一物一価の時代となったのです」

 AIの登場により、21世紀は再び「価格は変動して当たり前」の世界に回帰する可能性が出てきた。私たち消費者はこれからの数年で、モノやサービスの価格をめぐる歴史の大きな転換点に立ち会うことになるかもしれない。

 と、そこまで大げさな出来事かどうかはわからないが、言われてみれば、たしかに「いつでも価格が一定」というのはおかしな話だ。モノやサービスにどれだけの価値を感じるかは、その時々によって異なるからだ。