「くくっ」

 2016年9月27日16時過ぎ、日経ビジネス編集部。席の近い後輩記者から失笑が漏れたのに気づいてそちらを見ると、彼もニヤニヤしながらこちらに顔を向けていた。

 「もしかして、日産のリリースを見たの?」

 記者が聞くと、後輩は頷きながら答えた。

 「これ、めちゃくちゃ面白くないっすか?」

 2人とも自動車業界の担当で、ほぼ同時に日産自動車からメールでニュースリリースを受け取っていた。タイトルは、「日産自動車、自動運転技術から着想を得た『プロパイロットチェア』を公開」。そそられるタイトルにつられてリリースに貼られたリンクをクリックすると、下の動画を見ることができた。

日産自動車が公開した「プロパイロットチェア」の使用イメージ

 「プロパイロット」とは、同社が8月24日に発売した新型ミニバン「セレナ」に搭載した運転支援技術のことだ。高速道路の単一車線でなら、前方を走る車両に自動で追従して走ったり止まったりできる。渋滞時などでドライバーの負荷を低減する(あるいは衝突を減らす)ことを狙ったもので、同社はこれを「自動運転技術」と呼んでいる。

行列待ちの負荷を低減?

 この技術から「着想を得た」という椅子は、確かに人間に操作されることなく動いていた。使い道はいろいろと想定されているようだった。例えば、人気飲食店の外で待つ顧客がこの椅子に座って行列待ちをすれば、順番が回ってくるまで椅子が自動で行列の前へと進んでくれる。

 動画を見た瞬間、筆者の頭の中はクエスチョンマークだらけになった。一番の疑問は、日産がなぜわざわざこのような椅子を作って公開したのか。もちろん、セレナの販売促進のためだとは思ったが、あまりに馬鹿げていて(失礼!)すぐには解せなかった。

 椅子が自動で動く仕組みも知りたかった。本当にプロパイロットと同じシステムを搭載しているとしたら、前方(店の前の行列の場合は横方向)の状況を認識するために単眼カメラを積んでいるはずだった。「椅子にそのまま積んで機能するのかな。そもそもコストが掛かりすぎるし…」。馬鹿げていると思いつつ、そんなことを真剣に考えてしまった。

 ちょうど同日に日産の広報担当者に会う予定があったので、ざっくばらんに聞いてみた。

 「これ、一体、何なんですか?」