リーダー不在が根本的問題

 日本でEUのような漁獲管理ができない理由について、水産庁の関係者は「ステークホルダーが多すぎるから」と弁明する。1970年代にEEZにより海洋資源を各国が囲い込むようになった後、日本は漁業経営体の集約を進めてこなかった。日本の漁業者の約9割は小規模経営の沿岸漁業者で、漁業権の管理は漁協に任されている。対して、中規模の沖合漁業は都道府県が、大規模の遠洋漁業は水産庁が主に漁獲の許可を行なっている。それぞれの統括団体が違うため、横の連携は乏しく、資源の奪い合いのためにいがみ合うこともしばしばだ。漁業者が一丸となって漁獲管理に取り組む機運に乏しく、水産庁も漁業者全体に対して睨みが効かない。

 しかし、GR Japanの粂井氏は「まずはEUのシステムの一部だけでも取り入れることが重要だ」と指摘する。日本の小規模の漁業経営体の場合、漁獲量の記録をつけている漁業者は多くない。EUのように、漁獲時、水揚げ時、販売時のデータを管理するのは難しい。それでも水揚げ時には市場で漁獲量の記録は残る。水揚げ時に日にちや魚種ごとにロットナンバーをつけて流通させれば、一定程度のレーサビリティーは確保されるというわけだ。

 特集の取材を通じて記者が抱いた最も大きな疑問は、なぜ誰も抜本的な改革に取り組まないのか、という単純な問題だった。隣に中国がいようと、ステークホルダーが多かろうと、粂井氏が提唱するような改革へのはじめの一歩を踏み出さない理由にはならない。EEZによる200海里時代が始まって以降の日本漁業の衰退は「不作為」の一言に尽きる。漁協にも水産庁にも、漁業者に痛みのある改革を受け入れさせるだけの気骨のあるリーダーが生まれなかった。

 40年間漁業の衰退を止められなかった現実を真摯に受け止め、水産庁の幹部を全て外部から呼び込むぐらいの大鉈が必要だと記者には思える。今の水産行政に必要なリーダーの資質は、専門知識や現場経験よりも、改革に挑む「気概」ではないだろうか。